防衛庁が、情報公開請求者の個人情報リストを全庁ぐるみで組織的に作成していたことが明らかとなった。プライバシー侵害どころの問題ではない。それは、現行法の下でさえ、政府・防衛庁が反戦・反自衛隊の考えを持つ人々をあぶり出し監視・統制しようとしている姿をあらわにした。今国会に提出されている「個人情報保護」法案=言論弾圧法案や有事法制案が強行されれば、戦争体制に反対する言論・活動に対するこのような統制策動にフリーハンドが与えられることになる。
個人リストは思想調査
防衛庁が作成していたのは、同庁に情報公開を請求した人々の個人情報リスト。
本来、公開請求書に記入が求められるのは氏名・住所と公開希望の内容だけで、連絡先の電話番号も任意記入となっている。にもかかわらずリストには、職業・役職、生年月日、会社・所属団体などが記載されていた。さらに、請求件数の多い人物・団体順に並べ替えたリストもあり、市民G(グループ)・元自(自衛官)・マスコミ・学校・業者などに分類。請求者に対する追跡調査なしには知り得ない転居先、女性請求者の旧姓なども載っていた。
この情報リストの眼目は、市民団体名や「反基地運動の象徴」「反戦自衛官」という請求者の思想信条に関わる記載があることだ。過去に情報公開を請求した非営利法人「ピースデポ」の梅林宏道代表は「情報公開法の運用や事務のデータとしては不自然、思想調査としか思えない」と厳しく批判している。まさに国民の反戦・反自衛隊思想を調査する目的で作成されたのだ。
強化される市民監視
当初、防衛庁は海上幕僚監部情報公開室の三等海佐の個人的行為と弁明していた。だが、中谷防衛庁長官は六月三日、海上幕僚監部だけでなく内部部局と陸上幕僚監部、航空幕僚監部でもリストを作成していたことを公表。防衛庁あげての組織的関与を認めざるをえなくなった。
リスト作成は部署ぐるみで行われ、しかも庁内のLAN(コンピューターネットワーク)で閲覧可能にしていた。掲載されていた請求件数(人数)は、海幕千百四十件(百四十一人)、陸幕五百三十四件(百三十九人)、空幕千二百十四件(百二十人)、内局千二百十四件(人数不明)という膨大な数にのぼる。防衛庁長官も知らないわけのない全庁的な犯罪行為だ。
今回あらわになったのは、情報公開請求者についてのリストだが、それは政府・防衛庁による国民監視活動の一端にすぎない。
直接の窓口であった海幕・空幕の情報公開担当隊員のうち、六人は情報収集・諜報活動を行なう部隊(調査課)の出身者だった。また、リストが配布されていたことが明らかになっている中央調査隊は、自衛隊員や防衛庁取引業者の身辺調査を行なうかつての「憲兵」に当たるものであり、最近では市民を監視・調査する活動に力をいれていると言われている。
リスト作成の背後に、自衛隊などに批判的な国民をリストアップし追跡・監視を行う日常的な思想調査・情報収集活動があることは間違いない。
有事法制と一体の動き
防衛庁のこの事件は、「個人情報保護」法案と有事法制案の狙いをいっそう鮮明に浮き彫りにした。
「個人情報保護」法案は、NGO・市民団体などの運動のネットワークを監視・介入し、反戦・反政府の言論や情報提供を統制するものだ。有事法制案も、初めて罰則規定を盛り込み、自治体や指定公共機関への戦争協力強要を合法化する。ともに、国家意思に従わないものをあぶり出し、抵抗を封じて、戦争体制づくりを一気に推し進めようというのである。
現行法すら平然とふみにじり、反自衛隊思想のチェックのためには個人情報も基本的人権も一切かえりみない政府・防衛庁。こんな連中の好き放題に有事立法=戦争政策を進めさせてはならない。その声は、広範な世論になりつつある。