沖縄・名護市東海岸に「ジュゴンの里」をつくる取り組みが進んでいる。カヌーツーリングを通して、新基地建設からジュゴンと自然を守ろうという企画だ。ジュゴンの里づくり有志の会代表・東恩納琢磨さんに話を聞いた。(六月八日、まとめは編集部)
カヌーツーリング
◆カヌーのオーナー募集が始 まったそうですね。
「ザンの家」で抱負を語る 東恩納琢磨さん (6月8日・名護市)
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カヌー三十艇分のオーナーを個人や企業、団体から募集し、一艇十五万円の購入費を拠出してもらいます。カヌーの保管・管理をこちらで請け負う代わりに、使わない時はイベントに活用させてもらう覚書を交わす。三十艇は事務所横の庭に保管します。
◆なぜカヌー事業を。
カヌーならジュゴンを発見できる可能性が高い。エンジン付きの船では音でジュゴンが逃げてしまう。それと同時に、この大浦湾は静かな海なので、安全でカヌーを漕ぐのに適しています。
基地建設が予定されている辺野古沖の無人島までカヌーを漕ぎ出していく。都会の人に自然の素晴らしさを実感してほしい。島から予定地を眺めたら「なぜ、こんなきれいな海に基地を作るの」という素朴な疑問がわいてくる。その姿を見て、地元の人たちも自然の大切さを見直すきっかけになります。
ここはメジャーな場所でも日本百景でもない。過疎地で反対運動も少ないだろうと基地建設が押しつけられたと思う。このイベントを通して、ジュゴン生息の場の存在を全国に知らせようじゃないか―そんな思いからです。
修学旅行に最適
◆踏み出したきっかけは。
昨年十一月、神奈川の私立高校生六十人の修学旅行を受け入れた。最初は、先生から「ジュゴンのことを話してほしい」という申し出でした。私は、どうせ来るなら一日コースで海の体験、紅型(びんがた)の伝統芸能体験プラス昼食をしながら、おじいやおばあと交流してほしいとお願いした。そうしたら、本当に一日コースが実現しました。
瀬嵩の公民館前に観光バス二台が止まった。初めてのことですよ。私はカヌーをかき集め、婦人会やおばあら二十人くらいに食事の準備などをしてもらった。天気もよく、高校生たちは「サンゴ礁が見える」と本当に感動し、喜んでくれた。
沖縄民謡を披露すると、高校生もコーラスでお返し。修学旅行の報告集ではこのコースに参加した生徒の感想が一番よかったと聞きました。今年もまた来てくれる。これで、カヌーのメッカにできる、カヌーツーリングができると思いました。
◆取り組みの手応えは。
ジュゴンがすむ海を一望する 「ジュゴンの見える丘」
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沖縄タイムスが五月十五日に「海のツーリング / ジュゴンの里が新企画」の記事を載せました。五月十日の琉球新報にはエコツアーのシリーズで「ジュゴンの見える丘」の記事が載った。私たちが通称で呼んでいた名前ですが、市観光課から「どこにあるんですか」と問い合わせもあり、徐々に認知されてきた。
すでに十艇の申し込みがあります。WWF(世界自然保護基金)ジャパン、日本自然保護協会、全交や嘉手納、北谷、名護の人たちから声がかかっている。
みんなが集う場に
三十艇・三十人のカヌー仲間がいて、ここが情報交換の場になる。さらに、オーナーが仲間や周りの人を呼んでくればツーリングができる。来た人たちがここで採れた農産物を買い、地元の食堂で食事をし、泊まりたいという人も出てくる。そうやって繁盛すれば地元も活気が出る。
公共工事も本土や大手の業者じゃなく地元の業者を使うように変えさせていきたい。自然保存のモデル地域になれば、大型機械でやる工事じゃなく自然を破壊しないように人の力を活かした事業の発展も可能になります。
◆今後の課題は。
これまで十校から修学旅行の問い合わせがあったが、海に出ると聞いてびっくりする人も多い。「必ず救命具を付け、監視艇も出す」と説明しています。公立高校では胸より深い水辺に入れないという基準があるそうです。消防署などとも連携し、万全の安全対策をとっていきたい。
事務所の整備も課題です。「ザンの家(やー)」としてジュゴンの資料やグッズを展示する。ジュゴン保護を啓発し、台風にも壊れない頑丈な大型看板も作っていく。みんなが集える場にしたい。
ジュゴンの里づくりがこのように発展すれば、基地建設のための杭一本も打たせない力になる。今まで支援してくれた人たちへの恩返しというと変だけど、そんな取り組みにしたいと思っています。
◆ありがとうございました。
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・事業の問い合わせ先
名護市瀬嵩47番地
TEL 0980-55-8587