ロゴ:カルテの余白のロゴ 2002年12月06日発行766号

『家庭内暴力に泣く (1)』

 ドメスティック・バイオレンス(DV)、つまり家庭における配偶者の暴力から被害者を保護する法律(DV防止法)が制定されて一年がたちました。

 家庭内暴力について従来は、「人の家のいざこざに、他人が口出しできるものではない」「殴られるようなことをしているのでは」といった捉え方が一般的でした。この問題は私的な家庭内のことであって、当事者自身が自分で解決すべきものだという考え方です。

 この考えでいくと、ひどい暴力があっても、暴力をふるわれている者が止めたり逃げたりして自分で活路をひらくべきだということになります。しかし、DV防止法の施行によって明らかになった統計は、暴力を受けながら個人的な力や裁量でそれから逃れることが、どんなに困難で理不尽な要求であるかを示しています。

 私の病院がある大阪府の例をみてみましょう。法の施行後、大阪地裁に出された保護命令(被害者を加害者から守る法的措置)は百十八件。大阪は全国で一番多い数を示しています。加害者に規制を加える法律の力と女性や子どもが着の身着のままでも逃げ込める一時避難所の整備(大阪は現在十か所)が、被害者に大きな力と勇気を与えることになりました。

 暴力を受けるとは、単に殴られるという身体的な被害にとどまりません。多くは女性の人格、生活を全面的に否定されることを意味しています。金銭的不自由を強いる経済的暴力、おどしや体罰的威嚇、制裁をもって自由な外出や友人・家族との交流を極端に禁止する、そうした社会的暴力をともなっていることがほとんどです。そういった状況の中で、自分自身の無力感に圧倒され、恐怖と不安のため自分を大切にしたい感情そのものが奪われていくのです。

 「法律ができて、本当にほっとした」「暴力を受けてるって言っていいんだって思った」といった、おなかのの底からしぼり出される被害者の声を聞きます。暴力の回避は、受ける側の責任ではなくて、加害者の責任であり暴力を醸成する社会構造の、つまり社会的責任が問われるべきです。DV防止法の制定はその第一歩となりました。

 では、ドメスティック・バイオレンス問題について、産婦人科診療の中で出会った様々な具体例を振り返りながら、考えてみましょう。えっ、もう行数がないって。というわけで、この続きは次回で。

(筆者は、大阪・阪南中央病院産婦人科医師)

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