2003年02月21日発行776号

【元国連査察官 スコット・リッターさん講演会 パウエル報告は失敗 アメリカこそ査察妨害者】

 元国連査察官スコット・リッターさんを招いて「『イラク戦争』を考える講演とシンポジウム」が二月六日、東京大学駒場キャンパス内で開かれた(主催・東大駒場教官有志)。約千人が詰めかけ、会場に入れない人も出た。一九九一年から七年間、イラクで大量破壊兵器の査察に従事したリッターさんは、五日のパウエル米国務長官の国連安保理報告を「何一つ確定的な証拠はなく失敗」と断じ、国際法上全く根拠のない対イラク武力攻撃を厳しく批判した。

 リッターさんはイラクでの経験について「査察当初イラクの妨害はあったが、査察官は大きな成果を上げた。九六年までに大量破壊兵器の九〇〜九五%を廃棄し、工場や施設は一〇〇%破壊した」と振り返った。査察成功のための必要条件として上げたのは次の三つだ。(1)イラクの完全な協力(2)廃棄決議を採択した国連安保理のバックアップ(3)査察する側も国際法の枠組みに従わなければならないこと。

政権転覆が最優先

 九一年からの査察では(1)と(2)は履行されず、(3)についても「査察当初からアメリカはフセイン政権転覆を最優先の目標とし、それを査察よりも優先していた」と指摘。「査察中断の責任はイラクにあったのではなく、様々な妨害行為を行ったアメリカにある。中断で、イラクが潔白になったわけではないが、国際社会に脅威となるものを持っていたわけではない」と語った。

 昨秋から再開された査察では(1)(2)は満たされているという。「イラクが無条件で受け入れ、安保理決議に協力しない場合イラクは深刻な事態を招くという法のバックアップがある」からだ。

 しかし、(3)については「アメリカは依然として大量破壊兵器の廃棄よりもフセイン体制の転覆が最優先。表面では査察を求めるというが、実はそうではない。廃棄が完全に行われれば、経済制裁を解かなければならない。フセインが政権に就いたまま国際社会に復帰する。これをアメリカは絶対に容認したくない。査察が成功裏に進むことは、アメリカの望みとは逆行する」と米国の狙いを示した。

武力行使は違法行為

 パウエル国務長官が二月五日、国連で公表した大量破壊兵器保持の「証拠」については「単なる状況証拠でしかなく、確定的に大量破壊兵器を保持・製造・開発している材料は一つも含まれていない」と批判した。

 写真を示し化学兵器が存在するとの主張には「パウエルがそう言うだけで、誰も裏付けをとることはできない」、イラク軍人の盗聴テープについては「どのような文脈で、誰がどこでどんな目的で交わしたものなのか分からない。何ら証拠にはならない」、十八台の移動式の生物・化学兵器製造車両については「絵を見せただけで、写真も何もない。これが証拠でしょうか」など、逐一反論した。

 「イラクに大量破壊兵器があることを示すのがパウエルの狙いなら、完全な失敗。査察官が一つ一つ検証していけば、すべて証拠としては退けられる。公表は、国際社会に査察への疑いの目を植えつける目的でしかなかった」と怒りを込めて語った。

 さらに、「査察官が何も見つけられなかったら、アメリカは戦争への支持をどのように取り付けるのか。査察は無効と主張し、武力で排除するしかないと言いたいのだ。武力行使は国際法上、根拠のない違法行為。強く反対してほしい」と強調した。

戦争とめる「意志」を

 最後にリッターさんは訴えた。「私の理解では、日本人の大多数は戦争に反対だ。しかし、日本政府はアメリカを支援しようとしている。これが民主主義でしょうか。日本がアメリカの友人なら、『友が酔っぱらって車を運転するのを許さない』という言葉のように、酔っぱらい運転をする友人の肩越しにキイを取って車が崖から落ちないようにしてほしい。戦争はゲームではない。人を殺し、殺される現実です。この会場には平和への願いが感じられる。しかし、戦争は願いでは止まらない。止めるのは意志です。皆さんは戦争を止める意志がありますか」

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