2003年03月28日発行781号

【寄稿 新幹線乗務員の「居眠り問題」 JRの異常な体質浮き彫りに】

 名古屋在住の鉄道ファンで、『人らしく生きよう−国労冬物語』の上映運動を地元で担ってきた地脇聖孝さんから新幹線乗務員の「居眠り問題」について寄稿してもらった。

 JR西日本管内で起きた新幹線運転士の居眠り事故は、改めて同社が抱える異常な体質を浮き彫りにした。

 確かに新幹線にはATC(自動列車制御装置)があり、運転士が速度指示に従わなかったときは列車を自動的に止めてくれる。しかし、どのような安全装置にも完全はない。昨年六月には、新幹線の一部車両でATCに連動するブレーキが自動で働かなかった実例も報告されている。可能性としては低いが、もしATCのブレーキが利かない状態で運転士が居眠りしていたらどんな恐ろしい事態が起こるだろうか。

 今回の居眠り事故には、鉄道ファンの視点で見ると同情すべき点もいくつかある。ATC作動中の新幹線は、ATCが自動的に速度を調節してくれるため、運転士は機器類の監視を行うのみで事実上何もすることがない。一人乗務中の運転士は孤独で、会話する相手もいない。新幹線の運転台は高い位置にあるため、あれだけのスピードにもかかわらずスピード感が全くない。高速列車用に特別にあつらえられた安定した軌道の上を走っているため、在来線のような振動もほとんどない。おまけに、昔と違って今は運転席や車掌室も空調完備が当たり前になっている。

 こんな状態で眠るなという方が無理な相談だろう。私は今回の居眠り事故を「氷山の一角」と見る。この運転士ほどひどくはなくとも、眠気で注意力が落ちたり、ウトウトする程度の経験は多数の運転士がおそらく持っているのではないだろうか。

安全対策の再検討を

 JR西日本は今回の事故を受け、今後は運転士資格を持つ車掌に監視をさせる、管理者を添乗させる等々の対策を行う模様だが、新幹線の車掌も激務である。一編成の長さが最大で四百メートルにもなる列車のお守りをしつつ、運転士の監視まで務めることは事実上無理であり、これらの措置も結局は長続きはしないと思う。そして同社のこと、今までと同じようにうやむやにされ、また同じことが繰り返されるに違いない。

 鉄道ファンの間ではJR西日本の無責任、安全軽視は今や常識となっている。恐ろしいことに、ファン同士が集まるたびに「一度大事故を起こさなければこの会社は分からない」「もはや手遅れだ」といったことが公然とささやかれる状況にある。

 鉄道ファンが危機感を募らせる中で、この会社では運転士だけが居眠りをしているわけではないらしい。上層部も組織としての会社も、みんなが寝ぼけている。JR西日本は、運転士の居眠りをとがめる前に自分がまず目を覚ますべきである。安全対策を根本から再検討し、新幹線の運転士は複数乗務制とすること。迷ったときは最も安全な取り扱いをする「フェイルセーフ思想」を徹底すること。それなくしてJR西日本の信頼回復はあり得ない。

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