「よっしゃー、釣れたっ! あーぁ、ぼてじゃこかぁ……くそっ! エサを返せボケ」
ポイ!
琵琶湖に行くと、いくらでも釣れるが、食べることもないので捨てる魚――。これが、今から数十年前の、ぼてじゃこの境遇だった。
ぼてじゃことは、イチモンジタナゴやヤリタナゴなど、琵琶湖に棲むタナゴたちのことを指す方言だが、テレビドラマにもなった花登筺(はなとこばこ)原作の小説、『ぼてじゃこ物語』で全国的にその名が知れわたった。
少年の頃、琵琶湖に釣りに行った私は、多くのぼてじゃこをゴミのように捨てていた。
ところが数年前、琵琶湖でぼてじゃこを釣り上げることなど、奇跡に等しい状態だと知らされた。過去の記憶のせいか、私にはにわかには信じられなかった。事実を確かめるべく琵琶湖博物館に行くと、最先端の水槽の中で、あの「雑魚」、ぼてじゃこが、仰々しく飼われていたのだ。その光景を見てやっと、現実を受けいれることができた。
琵琶湖にあふれんばかりいたぼてじゃこが激減したのは、彼らが卵を産みつける貝が減るなどの環境悪化と、彼らを食べるブラックバスやブルーギルといった外来種の放流が原因だといわれている。
「失って初めて知る」とはよくいったもので、ゴミのように捨てていた私だが、どうにか絶滅せずに生き残ってくれと、祈るような思いでぼてじゃこを見守っていた。が、ぼてじゃこの一種、イチモンジタナゴが琵琶湖から消えた。
ところが、その、イチモンジタナゴが京都の平安神宮の池で生き残っていた!
平安神宮は一八九五年の創建以来、琵琶湖疏水(そすい)から水を引いていたため、境内の池にも琵琶湖の希少な魚類が生息していたのだ。八一年、琵琶湖に赤潮が発生すると境内の池でも被害が出たため、導水口に浄化装置が設置された。このことが功を奏して、ブラックバスやブルーギルといった外来種の侵入を防ぐことができたのである。
生き残ってさえいてくれれば、いつの日か琵琶湖に帰してやることだってできる。私はひとまず胸をなで下ろした。
来月から滋賀県では、「外来種リリース禁止条例」が施行される。けれども悪いのは外来種だけではない。ぼてじゃこが卵を産みつける貝などが棲めないように水を汚した、私たち人間にも責任がある。むしろそっちの方が大きな問題だったかもしれない。
生命の基盤の水と水問題を考える「第三回 世界水フォーラム」が、十六日から、琵琶湖淀川水系に係わる滋賀、京都、大阪で開催されている。