ブッシュ米大統領は、イラクの人々にむけミサイルを放った。全世界の平和の声を敵に回して、大量虐殺に踏み出した。市民調査団のメンバーの中にはまだバグダッドにとどまっている人もいる。逃げることのできないイラクの人々とともに、米国からの恐怖に耐えている。(T)
民間人に犠牲者
「このまま戦争が続けば僕は死ぬことになります。まだ間に合います。どうか皆さんの力で戦争を止めてください」。悲痛なメールが飛び込んできた。バグダッドにとどまるフリー・カメラマン久保田弘信さんのメールだ。第二次市民調査団として二月下旬にイラクに入ったメンバーのネットワークから転送されたものだった。
訪問中に出会った子どもたち。彼らが通う学校は大統領宮殿から近い距離にある。
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「アメリカのしていることがあまりにひどいのでお伝えします。実際の状況はメディアとは違います。昨日の爆撃ではイラク中心部に多くの被害があり犠牲者もたくさんでています。今日の夜には恐怖と畏怖の作戦というのがあり、広島・長崎と同じぐらいの被害を通常兵器で起こそうとしています。核兵器を使わなければいいという問題ではありません」
第二次調査団のメンバーのうち、団長のジャミーラ高橋さんをはじめ、数人がバグダッドにとどまっている。水道施設に寝泊まりしているメンバーもいる。神崎雅明さんは現地から「ハビビ・アッサラーム(平和を愛してる)」とメールを発信。周りの人や家族に、そして日本政府、ブッシュ大統領・ブレア首相・アメリカ兵・イラク兵・フセイン大統領にも「ハビビ・アサラーム」と伝えようと呼びかけている。
「私たちは危なくなったら逃げられるけど、イラクの人々は逃げるところがない」。現地にとどまる人々はそんな思いに駆られている。
まさに、なぶり殺し
昨年十二月、第一次の市民調査団で初めてイラクに行った。米軍の十年以上にわたる戦争犯罪の実態に触れた。湾岸戦争時に撃ち込まれた劣化ウラン弾という核兵器は百万発近くに上る。ガンで苦しむ子どもたちに会った。
飛行禁止空域をわが物顔で飛ぶ米戦闘機。爆撃で負傷した少年に会った。十年以上続く経済制裁は、医薬品の輸入を制限し、多くの子どもたちを殺した。この一つ一つが、実は今回の攻撃の事前準備だったと思えてならない。
パトロール飛行は空爆の事前演習であり、イラクの防空体制を破壊した。経済制裁で、旧態の兵器はそのままだ。実質的な武装解除がすすんでいた。まさしく”なぶり殺し”としか言いようがない。
米軍の攻撃は、サダム・フセインにむけられたものではない。バグダッドに走る閃光の下には街角で出会った多くの人々の生活がある。
二月の第二次調査団では、バグダッドの街を歩いた。「マイ・フレンド」と呼びとめられ、シャイ(茶)を勧められたのは革命広場だった。フセインの写真を文字盤に貼った腕時計をみやげに買えとしつこく迫られた。第一撃を受けた宮殿からは二、三キロの距離だ。貧困層が多く住むというサダム・シティの近くには、政府機関・軍関係施設はないはずだ。だが米軍の攻撃はどこを狙うか、わからない。写真を撮った一家が無事であってほしい。
命をもてあそぶな
英語を習っていたラウダ・アサヒール保育園の園児たち。「英語は国際的に重要な言葉」と先生は語っていた。その米英軍が攻めてくる。なんと皮肉なことか。マンスル小学校では「NO WAR」の絵を掲げた子どもたちがいた。サイン攻めにあい、いくつものノートに名前を残してきた。
少しでも街が映らないかと、テレビの前に釘付けになっている。あの街角が、あの笑顔が、そのままであってほしいと願わずにはいられない。爆撃で破壊されるものは、日々積み上げた人々の営みそのものである。訳知り顔の軍事評論家や中東専門家の解説など聞きたくもない。
大量殺人を予告し、実行したブッシュの罪状は重い。先制攻撃を正当化する行為は、不信と暴力を世界に蔓延させる。自らの野望を満足させようとする政治権力者の駆け引きに、私たちの命をもてあそばせてはならない。(終)
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