ロゴ:カルテの余白のロゴ 2003年04月18日発行784号

『性行為感染症(上)』

 『性行為感染症』ということばをいろんな場所で見かけるようになりました。テレビ、新聞、市民向け講座等々。たいていは、「増える…」「十代に広まる…」といった枕ことばつきです。

 ○月○日 〔登校前に、制服姿で〕 A「熱あるねん。おなかも痛いし。アソコのまわりが、めっちゃ痛い。おしっこしみるし、歩かれへん」 私「彼氏とセックスしてるん?」 A「これって、性病?」 私「たぶんヘルペスやね。おなかもふくれてるから、ほかの性病もあるかもね」

 結局、外陰ヘルペスと、腹膜炎にまで広がったクラミジア感染症とわかりました。

 ○月○日 〔深夜、救急車で〕B(体は、火の玉のような熱さで)「数日前から、微熱があっておなかも少し痛んでました。きのうの夕方からおなかが張ってきて、痛みもひどくなって…」と、言うのも苦しそうです。麻痺性の腸閉塞で手術になりました。膿の混じった多量の腹水から予想どおり淋菌が検出されました。

 たしかに、十数年前でも、ヘルペス、クラミジア、淋菌によるこれらの性行為感染症はみられていました。でも、最近五年間くらいの様相は以前とはまったく異なります。

 まず、近年の統計でも、クラミジア感染症はぐんぐん増え、淋菌感染症も確実に増えています。この二つ以外の外陰ヘルペスや尖形コンジローマといった性行為感染症も、前二者ほどでないにしても増えています。

 数だけではありません。この二例に共通するのは、性器の局所的な症状にかかわらず炎症が腹腔内に広がり腹膜炎を起こしていること、それが、腸の動きを止めるくらいにひどいものだということです。そして多くの例で、病原菌はひとつでなく、混合感染を起こしています。ヘルペス+クラミジア、クラミジア+淋菌といったぐあいです。以前なら、ひとつの病原に対して一種類の薬剤で対応できたものが、二種以上の薬や、さらに手術まで必要な事態がめずらしくないのです。

 もちろん、きちんと治療すれば、たいていは一週間前後で、手術をしても十日から二週間で治ります。ところが問題はもうすこし複雑で、同じ女性が繰り返しやってくるのです。「こんなに短期間に、どうして再発したの」。つい声をあげそうになります。

 パートナーが同時に治療を行い、二人が完治するまでセックスをしないことが不可欠なのに、現実はそうではありません。

 急増し、重症化し、繰り返し蔓延する性行為感染症。この実態の中から十代の若者だけでなく年齢を問わず、男女の関係がおかしくなっていることが浮かび上がってきます。

(筆者は、大阪・阪南中央病院産婦人科医師)

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