2003年05月09日発行787号

【いま、イラク現地は… / ガン、白血病―被害は続く / 人々を蝕む劣化ウラン】

 イラク爆撃で米軍は劣化ウランの使用は認めたものの、その放射線被害についてはあくまで否定している。「影響あり」とする軍内部の報告書は「時代遅れだ」とし、「劣化ウランの除去は、行うつもりはない」との態度を表明した。

 こんな報道に接し、今年二月にイラクを訪れたときの一シーンが頭に浮かんだ。

白血病に侵された子ども
写真:抗がん剤の副作用で頭髪が抜けた男の子

 湾岸戦争時に劣化ウラン弾が集中的に撃ち込まれたクウェート国境付近。イラク南部の都市バスラにあるサダム教育病院を訪れた。昨年十二月にも訪問し、白血病やガンに耐える子どもたちに出会ったところだ。”悲しい写真はもうとりたくない”そんな気持ちをひきずっていた。

 放射線障害の治療法研修で訪日経験のあるアル・アリ医師が今回も病室を案内してくれた。自身もガンにおかされながら、治療にあたっている。

 「この女性は、左足を切断した。クラスター爆弾で傷を負った。その後、骨ガンになってしまった」

 むき出しになっていた左足は大腿部しかない。その先端はふくれ、手術の跡が痛々しく見える。デラールさん(17歳)。高校生だった。「将来は教師になりたい」と精一杯の笑顔を作りながら、そっと脚を隠した。

 彼女の街カラークは、イラク軍の退路にあたっていた。劣化ウラン弾の集中砲火を浴びたところだ。クラスター爆弾が原因でガンになったのかどうかは分からない。だが、クラスター爆弾に劣化ウランの金属片が含まれていたとしてもおかしくない。

「米軍が拾って帰れ」

 劣化ウランは、一九七〇年代から貫通体として砲弾の芯に利用されはじめた。湾岸戦争では、戦車の分厚い鋼鈑を撃ち抜くために、戦闘機の機関砲や戦車砲の砲弾として大量に使われた。強力な破壊力を目の当たりにした戦争屋たちは、コソボ、ユーゴスラビア、アフガニスタンと次々に使用範囲を拡大していった。そして、いまやあらゆる爆弾の「標準装備」と化している。

 今回のイラク攻撃で米軍は、バンカーバスター(硬化目標攻撃用誘導弾)を住宅地に撃ち込んだ。地下に隠れたサダム・フセインの殺害を狙った。従来の鋼鉄製の弾頭部に比べ、劣化ウラン製のものは一・八倍の貫通力をもつ。その他の誘導爆弾や巡航ミサイルにも劣化ウランは使われ、その数は二十三種類にも及ぶ。

 そうした誘導弾が七千発以上もイラクの人々に向けて発射された。使われた劣化ウランの総量は千トンを超えると試算されている。湾岸戦争時の三倍以上の量となる。

 大切な家や生活を失い、かけがえのない家族を奪われたイラクの人々。絶望のふちから立ち上がろうとしても、放射線や重金属汚染の災禍がいつまでも重くのしかかる。”一粒も残さず拾って帰れ”―米軍への怒りはおさまらない。(T)

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