国際法の中で個人・市民の地位がもっとも鮮明になるのは国際人権法の分野だ。数回にわたって、国際人権法を簡潔に紹介して、国際法の世界にどのように個人が登場してきたかを明らかにしていこう。
国際人権法を構成する人権条約には、1926年の奴隷条約から2002年の女性差別撤廃条約選択議定書などに至るまで、数十の文書がある。もっとも基本となるのが世界人権宣言であり、次に2つの国際人権規約、そして女性や子どもに関する個別の人権条約がある。
1948年の世界人権宣言は、第二次大戦中における多大の人権侵害に対する反省に始まっている。国連憲章前文が「基本的人権と人間の尊厳及び価値」を掲げ、国連憲章1条3項が「すべての者のために人権及び基本的自由を尊重するよう」国際協力を求めているのを受けて、世界人権宣言前文は「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎」をなすとしたうえで、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」としての人権宣言を謳いあげている。
世界人権宣言は、全30条からなる。かいつまんで見ると、自由平等(1条)、権利と自由の享有に関する無差別待遇(2条)、生命・自由・身体の安全(3条)、奴隷の禁止(4条)、非人道的な待遇又は刑罰の禁止(5条)、法の前における人としての承認(6条)、法の前の平等(7条)、基本権の侵害に対する救済(8条)、逮捕・抑留・追放の制限(9条)、裁判所の公正な審理(10条)、無罪の推定、遡及処罰の禁止(11条)、プライバシー・名誉・信用の保護(12条)、移動の居住の自由(13条)、迫害からの庇護(14条)、国籍の権利(15条)、婚姻・家族の権利(16条)、財産権(17条)、思想・良心・宗教の自由(18条)、意見・表現の自由(19条)、集会・結社の自由(20条)、参政権(21条)、社会保障権(22条)、労働権(23条)、休息・余暇権(24条)、生活 水準の確保(25条)、教育権(26条)、文化的権利(27条)、社会的・国際的秩序への権利(28条)、社会に対する義務(29条)、権利・自由を破壊する活動の不承認(30条)である。
多くの規定が「すべての者は・・・の権利を有する」という形をとっている。国家群たる国連が採択し、国家の遵守事項を定めたものだが、個人が国際法の世界に浮上し始めたのである。