2003年05月23日発行789号

【「カルテの余白」 性行為感染症(下)】

 性行為感染症が、容易に繰り返され、十代の若者に限らず非常な勢いをもって蔓延するのは、なぜでしょうか?

 ○月○日 A(高校生)「性病ちゃうかみてほしいねん」 私「なんか症状あるの?おりものが多いの?」 A「別に、わたしは何とも思わへん。彼氏が、おまえとやったあと変やって…」

 私「もし、そうだったとしても、どっちが先に感染してたかわかるん?」 A「彼は、前の彼女何人もおるけど、かかったことないって。わたしも、そうやけど…」

 と言っても、二人とも受診の経験はありません。いつ、どこで感染していても、わからないままに、新しい相手と接していることになります。 私「テレクラで知った人?」 A「出会い系(サイト)。ちょっとメールして、ええなって思ってから会ってるよ。どの子も、その時は、好きになるよ」

 ○月○日 私「この前、クラミジアの治療をしてから数か月ですね。またみたいですけど、旦那さんもきちんと飲まれました?」 B(既婚・三十代)「たぶん…」 私「今度は、ヘルペスも出てますしね。治療終わるまでに、セックスしなかったですか?」 B「あんまり強く断れへんし…ほかに、彼女もいるみたいだし」。これでは、感染の鎖は絶ちきれません。

 これらの例をみると、まず、女性の側からはっきりと男性に治療や禁欲期間を言いきれていないこと、男性は自分の側の責任に怠慢なまま、セックスの要求だけは続ける様子が見られます。

 次に、セックスという行為は、男女の関係が人間関係が最高のものとなった時になされるのでなく、むしろ関係のもっとも浅い時にされるものになっている、ということです。行為自体に二人の人間関係を深めるという互いへの尊重の気持ちがないので、性行為感染症についても無関心・無責任になるのも当然といえば当然です。 

 それでも、体を交えることで関係を実感しないと不安で孤独でたまらない、という年齢を問わずにみられる男女の関係性の問題があります。それこそが、蔓延の根本的な原因に思えます。学校でしっかり性教育をしてからだや病気の知識をえても、法的に婚姻関係にあっても、この底知れない不安や孤独がつきまとう日々、それに二人で助け合って向かうという関係性がないかぎり、不特定、その場限りの性行動の実態は変わりそうにありません。

 診断や治療の機会は、しばしばカップルのそれまでの関係を問う過程、当事者の女性の性への思いを確認する過程になります。その経験のなかで、自分の生活、人生そのものに何らかの気付きがあることを願う毎日です。(筆者は、大阪・阪南中央病院産婦人科医師)

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