2003年06月13日発行792号 ロゴ:なんでも診察室

【日本のSARS隠し】

 みなさんは日本にSARS(重症急性呼吸器症候群)患者は一人も発生していないと信じておられますか? 台湾人医師がもちこんだかもしれないと思われれば、政府とマスコミの情報操作が大成功していることになります。

 実は、WHO(世界保健機関)の基準でSARSに該当する患者がすでに十六人も出ていたのです。厚生労働省のウェブサイトでは、五月三十日でのSARS「疑い例」が五十一例、「可能性例」が十六例となっています。この「可能性例」こそSARSなのです。ところが、WHOが集計している世界の発生報告には、日本は「なし」となっています。

 この矛盾は、日本のSARSの定義が世界の定義と違うことからきています。WHOなど世界的な診断基準suspected caseは、簡単に言いますと、患者に接触したり流行地域に行ったりしていて、咳や熱が出ていて、他の病気でない、というものですが、日本でも「疑い例」として同じ基準が使われています。

 「疑い例」のうちレントゲン写真で肺炎や呼吸窮迫症候群の所見を示すか、コロナウイルス検査が陽性か、解剖でSARS以外に考えにくいかのどれか一つがあればpossible caseです。世界の診断基準ではこれがSARSです。ところが、日本ではこれが「可能性例」とされたうえに、別個に「確定例」というのを作っています。そして、「確定例」は〇人だからSARSは発生していないとしているのです。

 「確定」はどうするのか?というと、「SARS対策専門委員会」がする。どんな基準で?というと、わからないのです。これでは、政府の都合の良いように決められます。

 こんな操作をされますと、WHOは世界的な感染対策ができません。四月十一日のウォールストリートジャーナルは、日本が中国よりSARS発生報告を遅らしたとして、WHOが日本を批判したと報じています。しかし、四月二十一日に福田官房長官が、翌日には坂口厚生労働相がこの問題で中国を非難しています。

 患者を隠しておいて、次にしたことは台湾人医師の日本旅行の大報道です。この手法は、エイズの時と瓜二つです。「エイズ研究班」が日本独自の診断基準を作ることで薬害によるエイズ患者の発生を隠す一方、在米の「同性愛好者」を第一号患者だとでっち上げるなどして、国民の意識を操作しました。今回は、中国人に対する悪感情をあおっている気がします。

 兵庫医大谷田氏の論文(http://www.npojip.org/sokuho/030516.html)を参照させていただきました。

(筆者は、小児科医)

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