日本政府は、自衛隊のイラク派兵の理由を「復興に役立つからだ」とでっち上げている。フォトジャーナリスト広河隆一さんをリーダーとするイラク戦争被害調査チームは、占領軍により破壊され、今も放置された社会基盤をみた。電気・電話などの復興を妨害し、イラク民衆の怒りをかっているのは占領軍だ。自衛隊は民衆の願いを踏みにじる占領軍として、出兵する。
(豊田 護)
カルバラの町を回っているときだった。多くの電線が一か所に集まってきているところがあった。人の背よりも低く垂れている。その乱雑さは破壊された跡なのだろうか。他の地区でも同じような光景を見た。
各家庭からの電線が束ねられ1か所に集まっている(カルバラ)
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聞けば、地域の発電施設と各家庭を結ぶ電線だという。充分な電力ではないものの、夜の灯りぐらいはまかなえる。地域ごとの自衛策なのだろう。
バグダッドのドーラ地区に、大きな発電所がある。四本の煙突がそびえる火力発電所だが、煙が上がっているのは二本だけだった。フル稼働はしていない。燃料の供給が滞っているのか、あるいは設備のダメージかわからない。バグダッド市内でも、一日に何度も停電した。
二週間で復旧できるのに
送電線が切断されているところもあった。鉄塔が爆撃を受けた跡もあった。一部で電線の張替え工事が行われていたが、本格的な復旧工事は始まっていない。その時は、まだ準備ができていないのかと思っていた。
ところが、帰国後こんなニュースを知った。五月二十日、イラク電力公社の社員がバグダッドの共和国宮殿に向けデモをした。居座る米軍「復興人道支援室」に対し、「電気を返せ」と叫んだ。「われわれは電気の専門家だ。米軍が作業の安全を確保してくれれば、二週間で復旧してみせる。米軍はその気がない」。デモ参加の技術者の言葉だ。
電話についても事情は変わらない。
日雇いの仕事を英軍に求めるイラク人
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米軍はバクダッドの電話通信センタービルを爆撃した。全く電話は使えない、そう思っていた。だが、ドーラ地区では電話が通じていた。ただし、かけられる範囲は地区内に限られている。バスラの町でも電話が使えた。ここも特定の地域内だけにつながっている。
湾岸戦争のときも米軍は同じセンタービルを真っ先に爆撃している。数か月後には完全に復旧した。だが、今回はまったくめどが立っていない。実は通信大手モトローラなどの米国企業が、イラクで広めようとしている携帯電話の方式をめぐって、欧州の参入を阻止するよう米政府に働きかけているという。有線電話が復旧しては都合が悪い連中がいるのだ。
復興事業の独占狙う
電気にしても電話にしても、イラクの人々は自らの手ですぐにも復旧できる。だがそれを許さないのが占領軍である。復興が進まないのは、米軍・政府・企業一体となった妨害のせいだった。
ある政府機関の壁に「CHANGE SYSTEM」と落書きがあった。誰がどんなつもりで書いたのかはわからない。だが爆撃をはじめる前から「復興」事業を請け負ったベクテルなど米企業は、イラクの共同体社会のシステムを資本の論理に貫かれた弱肉強食のルールに変えようとしている。国営企業を民営化し、公共サービスを”商品”にすることを狙っている。電気・電話だけでなく、水道やガス、教育・病院、あらゆる社会的サービスが対象となるに違いない。
金持ちのための社会へ「CHANGE SYSTEM」。これが米国が思い描く「自由イラクの道」なのだろう。何千人もの民衆を殺戮し、イラクの資源を略奪することにとどまらず、共同体社会そのものを解体していく。このことへの憤りが、ますます広がりを見せる反米レジスタンスの背景にあるものだと思う。 (続)