ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2003年07月25日発行798号

『人権委員会におけるNGO(3)』

 2003年4月10日、人権委員会59会期における議題「女性の人権」は、ラディカ・クマラスワミ「女性に対する暴力」特別報告者の報告によって始まった。クマラスワミ報告者は、1994年から活動を始めたので、この10年の間に「女性に対する暴力」問題がどのような展開を遂げたかを測定するまとめの報告書を提出し、1994年から2003年にかけての発展と残された課題を指摘した。人権委員会会場には割れんばかりの拍手が広がった。

 クマラスワミ報告に続いて、人権委員国の発言となり、これまでもクマラスワミ報告者に関連する決議案を提案してきたカナダ政府を始めとする数カ国の政府委員が、クマラスワミ報告者の10年の活動に敬意を表し、報告書を高く評価する発言を行った。

 ロビーでは、すでにカナダ政府が起草した決議案に関する情報が流れていた。当初のカナダ政府案は「クマラスワミ報告書を歓迎する」となっていたが、日本政府が抵抗したために「クマラスワミ報告者の活動を歓迎し、報告書を留意する」に改められた。しかし、それ以外に大きな抵抗はなく、カナダ案が採択されそうだとの情報である(後に別の論点でアメリカ政府の修正案が出たが)。

 韓国のNGOは「今年のクマラスワミ報告書は新たに日本政府の問題点を指摘したり、新しい勧告を出したわけではないのに、なぜ日本政府はここまで抵抗するのか」と不思議がっていた。

 日本政府はとにかくクマラスワミ報告者憎しで、徹底的に抵抗する姿勢なのだろう。1995年以来、日本政府の主張は、クマラスワミ報告者によって論理的に粉砕されて、国際社会には通用しないことが明らかになってきた。1996年のクマラスワミ報告書は、日本政府にとっては目の上のたんこぶなのだ。まして「戦時性暴力は戦争犯罪ではない」などという異常な主張をしたことを国連報告書に記録されてしまった。だから何がなんでも認めない。クマラスワミ報告者の最終報告書に際しても「歓迎」を消して「留意」とすることで腹いせをしたのである。このため毎回のように、決議を押え込もうとする日本政府と、より積極的な決議を求めるNGOとの対立図式が生まれてきた。

 4月10日、韓国政府が発言し、クマラスワミ報告書を歓迎し、報告書が日本軍性奴隷制について優れた法的勧告をしてきたことを振り返り、そのうえで、日本政府がクマラスワミ報告書の勧告に従って積極的な措置をとるよう求めた。韓国政府がこうした発言をしたのは久しぶりである。韓国政府は、人権委員会で歴史教科書問題では日本政府に厳しい注文をつけてきたが、日本軍性奴隷制問題についてはこのところ明言してこなかった。クマラスワミ最終報告書の効果である。

 朝鮮政府も、クマラスワミ報告書を歓迎し、軍隊性奴隷制は人道に対する罪にあたり、国際法違反であるから、日本政府はクマラスワミ勧告に従って法的責任を受け容れるべきであり、被害者に補償し、歴史教育で教えるべきであるのに、現実には首相が靖国神社に参拝しているように、日本政府は戦争犯罪を反省していないと批判した。朝鮮政府は1992年以来一貫して日本政府の姿勢を厳しく批判し、歴史の真相と責任の所在の解明、謝罪と賠償を求めてきた。

 

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