ロゴ:カルテの余白のロゴ 2003年08月01日発行799号

『更年期「障害」(中)』

 さて、どうして更年期にはさまざまな不愉快な症状が起こるのでしょう。

 卵巣の老化によって女性ホルモンの分泌が減ると、当然、生理が止まったり、外陰部の不快感など性器にかかわる症状が出ます。しかし、実際に多くの女性が悩まされているのは、自律神経の失調症といった全身的な症状(胃腸・心臓・血管・呼吸・排尿機能など)や精神的な症状(主にうつ)です。

 本来女性の体はうまくできていて、これらの症状を自然に落ち着かせる仕組みが副腎という器官にあります。そもそも、すべての症状をえいやっと一気に消しさる必要などない程度の場合が多いわけで、たとえば、軽い胃腸薬や精神安定剤で十分なことも。

 もちろん、食生活の見直し(塩分ひかえめ、脂肪・コレステロールの取りすぎ注意)や適度の運動は、とても大切です。

 ところが、必要のない場合でもホルモン補充療法が安易に推奨されています。

 ○月○日 A子(60歳)「こないだから、十年ぶりに出血するんです。癌とちがいます? びっくりして…」 私「先月の癌検診は、異常なしですね」。超音波で見ると、子宮は生理がある女性のように見えます。私「薬、なんか飲んでます?」 A「もう何年もホルモン剤飲んでます。更年期になったら、飲んだほうがいいって言われて」

 聞けば、閉経とともに発汗や動悸が目立つようになった時、たまたま子宮癌検診に行ったら、すすめられたそうです。

A「老化防ぐし、楽になるって。たしかに、なんか若返った感じしましたけど。この年になって、生理がきたら変ですよね」

 これは、卵巣の自然の老化に対し、あたかもその時期ではないかのように、体外から女性ホルモンを体に注入する方法です。

 まるで体の年齢そのものを変更するような不自然なホルモン補充療法が推奨され、生理が「もどってくる」まで延々と飲みつづけるのは、なぜでしょうか? 重大な副作用の心配は無いのでしょうか?

 その秘密は、日本人に刷り込まれてしまった「老人の骨折=寝たきりの恐怖」という神話によるところが大です。ホルモン補充療法は、骨折につながる骨粗しょう症の予防に効果があるとされています。このため閉経↓骨粗しょう症↓骨折↓寝たきりへの不安を持つ女性に、ホルモン補充療法が必要だと受け止められているのです。

 そして、すべての女性が何年も服用するとしたら、製薬企業にとっては、その膨大な薬代が儲けの魅力といえます。

 けれど、このホルモン補充療法―見逃すことのできない副作用をもたらすのです(この項続く)。

(筆者は、大阪・阪南中央病院産婦人科医師)

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