ロゴ:カルテの余白のロゴ 2003年09月05日発行803号

『カルテの余白 更年期「障害」(下)』

 そもそも、閉経の前後から女性ホルモンを「くすり」として服用するという考え方や、「更年期は怖い、あっては困るもの」という受け止め方は、一体どこからくるのでしょうか?

 動脈硬化による脳卒中や心筋梗塞が多くみられるアメリカでは、これらの病気を少なくできるということでホルモン補充療法が広まりました。なんと対象年齢の三〇%・六百万人が、この治療を受けていた時期(一九九〇年なかばごろ)もあったのです。加えて、皮膚や性器の不快感が改善され、骨粗しょう症まで予防できるという「夢の若返り薬」のような大宣伝。日本でも、「使わないのは女性として大損」のような印象をもって浸透してきました。

 A(45歳)「友だちが、『あんたも、そろそろ飲んだほうがええよ』って。肌に張りがあって、うらやましいくらい。わたしも痩せてるし、骨粗しょう症になって骨折でもしないうちに飲もうと思うんですけど」

 私「まー、一般には『夢の若返り薬』みたいに言われてますけど、結構、副作用がありますよ」

 A「えーっ? 心臓やら、血圧やらにもええって聞いてますけど。いろんな癌にもなりにくいって、嘘ですのん?」

 私「癌のほうは、ホルモン剤で発生が減るものも増えるものもあります。骨のほうは、食事をきちんととって上手に運動するようにしたら、そんなに簡単には骨折しないと思いますよ」

 勢い込んでやってきたAさんは、なんだか拍子抜けで不満そうです。でも、効果より副作用が大きいというのがアメリカでの最新(二〇〇二年)調査結果。そこでは、心筋梗塞や脳出血を減らす効果はなく、むしろ危険因子になることが明らかにされ、骨粗しょう症にも他の薬剤や食事療法をすすめています。血栓症や乳がんの発生を増やすという重大な副作用のため、ホルモン治療を続行する調査を中止したほどです。

 さて、これまで無責任に「夢」を「売って」きた日本の関係学会や薬剤企業の対応は、どうでしょうか。

 「(1)危険因子(高血圧・動脈硬化・肥満など)のある場合は慎重に (2)乳がんの家族歴や可能性のある場合は禁止 (3)副作用の定期的チェックを強化」といった程度の勧告で、危険な薬という警鐘はありません。「欧米での調査は、日本人にそのままあてはめることはできない」といった、副作用の警告に対する過小評価すらみられます。

 生活ストレスの軽減、適正な食生活、適度の運動―つまり人間らしさの重視こそ、万人に安全な更年期対策であることを強調したいと思います。

(筆者は、大阪・阪南中央病院産婦人科医師)

 

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