2003年の人権促進保護小委員会(以下「人権小委員会」)では、基本的人権の重大侵害、市民的政治的権利、経済的社会的権利、差別の防止、特別の権利問題(女性の権利、現代奴隷制、テロと人権)などが議題とされ、報告や審議が行われた。日本軍性奴隷制問題は、従来は、基本的人権の重大侵害や現代奴隷制の議題の中で議論されてきたが、2003年からは市民的政治的権利の中の「法執行」のテーマとしても議論された。責任者が処罰されていない問題だからである。
8月4日、オランダのNGOである対日道義請求財団が、「アメリカ政府は日系人収容所問題で補償を払ったが、日本は東南アジアでオランダの民間人や捕虜を収容所で虐待したり強制労働させたにもかかわらず、謝罪も補償もしていない。残虐行為の被害者は今も不法行為の被害に苦しんでいる。しかし、日本政府は被害者を無視し続けている。日本国憲法は『国際社会において名誉ある地位を占めたい』と述べているが、日本が国際社会の一員になるには責任を取ることが必要」と述べた。
同日、アジア女性資料センターは、戦時性暴力の不処罰はなぜ続くのかと問い、10年間、韓国挺身隊問題対策協議会とともに日本軍性奴隷制問題を扱ってきた立場から発言した。2000年の女性国際戦犯法廷の際に開かれた戦時性暴力国際公聴会では、アフガニスタン、アルジェリア、バングラデシュ、ビルマ、ブルンジ、カンボジア、コロンビア、グアテマラ、インドネシア、コソヴォ、チアパス、朝鮮、ルワンダ、シエラレオネ、ソマリア、ヴィエトナム、沖縄、日本の性暴力被害者が証言した。そこで報告された事例のほとんどが不処罰のままであるとし、人権高等弁務官報告書が、この不処罰問題を調査研究するべきだと述べた。
8月7日、国際友和会と日本友和会のジョイント発言は、「戦時重大人権侵害の対処には、過渡期的であるが、3つの方法がある。第1に不処罰であり、責任者を処罰せず、交渉や恩赦の手段が用いられる。第2に裁判による正義の追及である。第3に真実和解委員会による和解の実現がある。真実和解委員会は過去にも多数の事例があり、分裂させられた社会の和解の手段として有用である。日本軍性奴隷制については人権委員会のクマラスワミ報告書、人権小委員会のマクドゥーガル報告書、ILO条約適用専門家委員会報告書などでの議論の積み重ねと勧告が出ているが、日本政府は責任を認めず、不処罰状態である。日本友和会が国会に上程された戦時性的被害女性問題解決法案を紹介し、アジア女性資料センターが補償ガイドラインを提案しているように、問題解決が必要である。国連監視下の国際的真実和解委員会を設置するべきだ」と提案した。
同日、アジア女性人権評議会は、性暴力犯罪の再生産を許してしまう司法の構造を脱構築するために、性犯罪の不処罰のメカニズムを解明する必要があるとし、日本の調査では90%の女性が何らかの性暴力体験を有しているとし、性的虐待の文化的条件が歴史的に形成されたことを指摘した。さらに、不処罰問題について、刑法の時効規定の不備を論じ、性暴力をめぐる言説を問い直し、人権教育を推進することを提案し、これらの問題が戦時大規模強姦キャンプの問題にも通底しているとした。
以上が人権小委員会でのNGO発言である。委員会での発言でもっとも重要なのは専門委員の発言であるが、今会期の発言では特に重要な発言はなかった。1998年のマクドゥーガル報告書をめぐる論戦、1999年のハンプソン決議案をめぐる激論、2000年のマクドゥーガル報告書をめぐる議論、2001年と2002年の日本の歴史教科書問題と首相の靖国神社参拝問題といった具合に例年、ホットな論戦が闘わされてきたが、今回はそうした大きな論点が提起されなかった。また、政府発言の中では朝鮮政府が例年通り日本軍性奴隷制に関する日本政府の無責任ぶりを厳しく批判したが、日本政府も韓国政府も何も発言しなかった。委員やNGOの発言では、議論の流れは、重大人権侵害の責任者の不処罰の原因探求と対策に向かっている。マクドゥーガル特別報告者が「不処罰の連鎖を止める」と提起した問題が今や中心論点となってきた。
2004年の人権小委員会に向けて、NGOは、各地の性暴力事件の事例報告とともに、不処罰の文化的社会的原因や司法制度の現状を調査し、不処罰に抗して処罰を実現する実践的方策を提起していかなくてはならない。