2003年夏の人権小委員会55会期は、人権の促進と保護のための理論的研究を推進して、30本の決議を採択した。決議番号と表題を紹介しておこう。
決議2003 / 1(飲料水と衛生の権利実現の促進)、2(腐敗と、腐敗が人権、とくに経済的社会的文化的権利の完全な享受に与える影響)、3(奴隷制の現代的諸形態に関する作業部会の報告書)、4(人権と生命倫理)、5(国連人権教育の10年)、6(テロリズムと人権)、7(有罪判決を受けて刑期を終えた者に対する差別)、8(軍事法廷による法執行の問題)、9(食糧の権利、およびその履行のための国際任意ガイドラインの発展における前進)、10(国際刑事裁判所)11(特に死刑に言及したうえでの人の移送)、12(経済的社会的文化的権利に関する国際規約2条2項に含まれる非−差別の研究)、13(極貧との闘いの文脈での現行人権規範と基準の履行)、14(社会フォーラム)、15(テロリズムと闘う措置が人権の享受に与える影響)、16(国境を越えた法人や企業の人権に関連する責任)、17(強制退去の禁止)、18(家屋と財産補償)、19(経済的社会的文化的権利に関する国際規約選択議定書)、20(腐敗の予防)、21(非−市民の権利)、22(労働と門地(世系)に基づく差別)、23(少数者の権利)、24(環境的理由からの土地の消失がとくに先住民の人権にもつ意味)、25(国際人権条約の普遍的履行)、26(組織的強姦、性奴隷制および奴隷類似慣行)、27(奴隷制の現代的諸形態に関する国連任意基金)、28(女性と少女の健康に影響を与える有害な伝統的慣行)、29(先住民に関する作業部会)、30(世界の先住民の国際10年)。
市民的政治的権利や経済的社会的文化的権利の問題を中心に、さらに新しい人権問題が取り入れられている。
奴隷制の現代的諸形態に関する議論は20年以上の蓄積を有する。国際刑事裁判所の議論は半世紀の歴史をもつが、1998年にようやくICC規程ができ、2002年に裁判所が発足した。死刑問題は80年代以後に欧州諸国で死刑廃止が進められ、死刑廃止条約もつくられた歴史を反映している。少数者や先住民に対する差別の克服も長い歴史をもつ課題である。
他方、科学技術や医療の発達に伴って生命倫理の問題が人権問題として浮上してきた。テロ問題も、それ自体は古いテーマではあるが、人権機関で取り上げられるようになったのは最近の情勢との関係である。「テロリズムと人権」という問題設定は、今後は「テロリズムと反テロリズムが人権に及ぼす影響」に組み替えられていくだろう。企業活動や、政治や経済にまつわる腐敗が人権に与える影響の研究も始まった。水や食料の権利や、極貧問題や、強制退去の問題や家屋の権利問題も、単に一国内の問題ではなく、グローバリゼーションと密接なつながりを有している。かつては「未開発」や「開発途上」として特徴づけられた問題が、実は現代資本の展開による帝国主義の帰結であることが、現代人権論の世界で再び注目を集めている。グローバリゼーションが人権に与える影響は人権小委員会のトピックの一つである。
人権小委員会は毎回こうした決議を重ねつつ、さらに情報収集と意見交換を繰り返しながら議論を深めていく。NGOはその討論に寄与することができる。
(国際人権法に関する解説はまだまだ途中であるが、いったん打ち切って、次回から国際人道法に入ることにしたい。)