ロゴ:カルテの余白のロゴ 2003年10月17日発行809号

『赤ちゃんは誰のもの?(上)』

 妊婦さんのなかには、制服のほうが似合いそうな十代のヤングママも少なくありません。A子は十六歳。中学を卒業したばかりで妊娠しました。

 A子「(妊娠六週と告げられて)うれしー!めっちゃ、うれしい。赤ちゃん、ほしかってん」

 私「そやけど、お金かかるよ。すごい手間もかかるよ」

 A子「彼氏、夜のバイトやから、大丈夫やと思う。結構、時間給ええねん」

 彼も十七歳だというので、心配になって、二人のお母さんにも来ていただき話し合いをもちました。どちらのお母さんも「欲しがっているのだから、好きなようにさせます」とのこと。そして、「産むんやったら、自分らで責任持ちや」と一言。ますます心配になります。

 妊娠中は、検診にもふたりでくっつくようにやってきました。超音波でみえる胎児を顔を寄せ合って見入っています。生活は、妊娠前と変わったふうにみえません。コンビニ弁当で毎日すごしている様子。九か月というのに、赤ちゃん用品の準備は退院時に着せるベビードレスだけです。

 さて、お産の日。若さのパワーと彼のつきっきりの応援で、とても順調なお産でした。分娩室は、最高にハッピーなムードに満ちていました。

 入院中、赤ちゃんはベビーベッドで眠っています。お母さんの姿が、しばしば見られません。お友だち数人に囲まれて面談室でおしゃべりに夢中だったり、若いパパと屋上で喫煙タイムのようです。お部屋にかえると「寝てばっかりや、笑えへん」

 生まれたばっかりの赤ちゃんのイメージが違ってたのでしょうか。ミルク会社のカレンダーの赤ちゃん(たいていは、生後七〜八か月)を想像していたのかもしれません。

 お産から二か月、地域の保健婦から切迫した声で電話がありました。「A子ちゃんの赤ちゃんが大変です。オムツもとりかえず、ミルクも水みたいに薄いのを時々やるだけで、放っておいたみたいです」。

 A子は「うるさいばっかりや。泣いてばっかり。どっこも行かれへん。彼も『金食いや』って、めったに帰ってけえへん」。A子夫婦の両親も自分たちには責任はないと、赤ちゃんは施設にひきとられました。

 お部屋に寝かせておき抱っこするだけで、かわいくて気持ちのいい、ふわふわのぬいぐるみのようなわけにはいかなかったのです。

 赤ちゃんは、何を運んでくれるはずだったのでしょう? 赤ちゃんを抱きたかったママは、本当は自分が赤ちゃんにふんわり抱っこされたかったのかもしれません。

(筆者は、大阪・阪南中央病院医師)

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