2003年11月07日発行812号

【不当廃業と闘う韓国シチズン労組 反グローバリズムの連帯で】

 今年六月、不当廃業に抗議して始まった韓国シチズン労組の日本遠征闘争。シチズン本社との交渉、日本の労働者への支援の訴えは、十月二十八日に韓国・馬山(マサン)で解決に向けた協議が行われることをもって一たん終了した。

団結まつりでアピールする組合員(10月19日・東京)
写真:舞台の上に一列に立つ組合員

 韓国シチズン争議は日韓のグローバル資本の横暴さを示すとともに、反グローバリズムの連帯が問われる闘いである。

 韓国シチズンは日本のシチズンが一〇〇%出資した時計メーカー。一九七八年に馬山市の自由貿易地域に設立されて以降、利益を上げ続け、「工場閉鎖はない」と約束するまでに成長してきた。ところが、今年初め、「業績不良」を理由に突然資本を撤収し、工場丸ごとの中国移転を決定。韓国人の社長を代理人に任命し、御用組合の委員長に廃業合意書にサインさせる一方で、民主労総金属産業連盟に加盟して工場占拠で闘う韓国シチズン労組の弾圧に乗り出した。四月には、暴力団を動員して強制解散をはかり、八月には抵抗する組合員を「特殊公務執行妨害罪」で告訴・告発し、パク・ソンヒ労組委員長を不当逮捕した。労組は工場再稼動、雇用保障、清算資金の使途公開、委員長の釈放など求めて闘っている。

背景に日韓投資協定

 このようなグローバル資本の自由勝手な振る舞い、撤収・不当廃業を促進したのは、二〇〇二年三月二十二日に調印され、今年一月一日に発効した日韓投資協定である。協定は(1)投資の許可段階(会社の設立)、許可後(会社の経営等)における最恵国待遇、内国民待遇の原則供与(2)現地調達要求、輸出要求、技術移転要求をはじめとする投資阻害効果を有する特定措置の履行要求の原則禁止(3)収用・国有化の際の適正な補償(4)国家対投資家の紛争解決手続き、などを規定したもの。日本は一九七八年以来九か国と投資保護協定を結んでいるが、日韓投資協定は「日本が過去に締結してきた投資協定と比べて投資家の権利保護という点においてレベルの高い協定」(二〇〇二年三月二十二日、外務省「協定の意義」)とされる。「多国籍企業のための権利憲章」と批判されたMAI(多国間投資協定)の日韓版である。

 日本側は当初、労働争議が発生した場合、投資受け入れ国が解決に向けて真摯に対応するという努力規定の条項化を狙っていた。「韓国との間では労働問題がいちばん。何とかしてほしいと、日本政府からたびたび伝えてきた」(経済産業省貿易振興課)という。日本企業の労働者抑圧の実態は、韓国の労働者も「外国人投資企業の中で、最近になってずば抜けて日本系企業で労働争議が起こっている」(民主労総)と注目しているほどだ。

 この条項化について、韓国側は「労組を刺激する」と消極的で、日韓労働者の反対運動により阻止されたが、協定前文に「労働者と使用者との間の協調的な関係が有する重要性を認識」と盛り込まれた。裏を返すと“協調がなされなければどうなるか保証しない”といった通告である。今回の韓国シチズン廃業でそれが端的に現れた。

交渉窓口こじあける

 もともと馬山自由貿易地域は「外国人投資企業に関する特例法」により、工場用地無料・税減免・労組禁止などの特恵措置が外国人企業に対して与えられている。進出企業の八割は日本企業だ。日本企業は「好条件」で海外進出し、より高い利潤を求めて突然資本を引き上げ、後始末は韓国政府の責任に帰す。

 韓国政府も九八年の金融危機以来、新自由主義−市場開放政策を基本に据え、協定締結によってグローバル資本の意に沿おうとしている。その犠牲になるのは労働者・市民である。

 九月二十六日、来日中の韓国シチズン労組に連帯する「韓国シチズン労組を応援する会」が結成された。シチズン本社への抗議・交渉申し入れ、団結まつりなどともに行動し、長期宿泊体制や活動資金の援助など、機敏に対応した。

 これらの共同行動によって会社の交渉窓口をこじ開け、ついに今回の協議実現となった。国際連帯がグローバル資本の横暴を許さない力である。

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