マスコミによると、今回の総選挙は「二大政党時代の幕開け」なのだそうだ。新聞論調をみても「政権交代が見えてきた」など、民主党が躍進し自民党と拮抗する事態を「二大政党化」として肯定的に評価するものが目立つ。だが、両党による議席の独占は誰にとって「望ましい」現象なのか。
改憲路線は同じ
「二大政党の時代 / 政権交代視野に」(11/10朝日)、「『2003年体制』への序章」(11/10読売 )等々、今回の総選挙結果をめぐる新聞報道や論調をみると、「二大政党」というキーワードがやたらと出てくる。
何かと論調が比較される朝日新聞と読売新聞も、自民党と民主党が衆院議席を分け合う事態を「二大政党化」として評価するという点では一致している。両紙は緊急世論調査まで実施して、「二大政党7割『評価』」(11/12朝日)、「『望ましい』69%」(同・読売)と書きたてた。
このように、マスコミは「これからの政治は二大政党制だ」という方向に世論を誘導している。「政権交代が可能な二大政党」、つまり自民党と民主党の競り合いが日本の新しい政治のかたちだと言うのである。彼らの言う「二大政党化」は本当に「望ましい」事態なのだろうか。
「二大政党」という用語にばく然とした期待が集まるのは、それが政権交代=自民党一党支配の打破として理解されているからだろう。しかし、現実に想定されている二大政党、自民党と民主党の政策を見比べてほしい。憲法改悪で自衛隊の海外派兵を促進する方向性は同じ。弱者切り捨ての構造改革路線には諸手をあげて推進の立場で、両党で「改革の本家」争いをするというありさまだ。
このように自民党の政策と民主党のそれに本質的な差はない。違いがあるといっても、コカコーラとペプシコーラの違いのようなものである。これでは両党の間で政権交代が生じたところで、改憲・構造改革推進路線は変わらず受け継がれることになる。
進む民意の排除
財界が言う「政治の安定」とは、まさにこのことを指している。日本経団連の奥田碩会長は「二大政党時代がいつか日本に来ることが見えてきた」と述べ、民主党の躍進を評価。来年から再開する政治献金の対象政党に民主党も含まれる考えを示した。
財界にすれば、彼らが望む構造改革や改憲・派兵路線を進めてくれるならば、政権与党が自民でも民主でも構わない。自民党が倒れた場合のスペアに民主党が成長することを期待する、と言うわけだ。
まとめると、「自民か民主か」という二大政党化は財界にとって「望ましい事態」であって、有権者にとってそうではない。なぜならそれは、改憲・グローバリズム翼賛体制の創出を言い換えたにすぎないからだ。
自民党と民主党しか選択肢がないということになれば、どちらでもない有権者の意見は行き場を失うことになる。こうした形での民意の排除は、すでに投票率の低下となって現れている。
今回総選挙の投票率(小選挙区)は全国平均で59・86%、22県で戦後最低記録を更新した。「メニューはたった2つ。それも似たような料理や。前に食べたヤツはメニューから外されとる。どっちにする?と言われてもねぇ」(11/10日刊スポーツ)。「自民か民主か」という選択を強いられた有権者の戸惑いはこんなところだろう。
高まる派兵反対の声
マスコミによる「二大政党時代の到来」キャンペーンに接していると、有権者の選択はもはや自民党か民主党かしかないかのような錯覚に陥ってしまう。どちらにも組みしない意見は政治的に無力であるかのような印象すら、一連の報道は与えている。
世論の多くは自衛隊派遣に反対
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もちろん、そうではない。たとえば、イラクへの自衛隊派兵反対の世論だ。政府・自民党やそれに迎合するマスコミの争点隠しによって、残念ながらこの問題が総選挙の中心的争点になることはなかった。しかしイラク情勢の緊迫化とともに自衛隊派兵反対の世論は確実に高まっている。
日本テレビの電話世論調査(11/14〜11/16実施)によると、自衛隊派兵を「支持しない」と答えた人は70・9%に達した(8月の調査より22・3ポイント増)。
派兵路線が世論の信任を得ていないことは明白だろう。強気の姿勢を示していた政府も自衛隊派兵基本計画の決定をずるずると先送りし、「年内派遣の断念」に追い込まれようとしている。
自衛隊のイラク派兵反対世論の高まりを小泉政権は恐れている。総選挙では十分に集約されなかった派兵反対の意見を束ね、その力で国会を突き上げることが緊急に求められている。 (M)
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