「われわれは物乞いではない」―「復興支援」を押し立ててイラク出兵をたくらむ日本政府。だが、イラク民衆の答えは明確だ。昨年末から1月10日まで、自衛隊駐留予定地であるイラク南部の都市サマワなどを訪れた。弱肉強食のルールを押し付け、社会を腐敗させる占領政策とそれに抗する民衆の姿を見た。自らの手で再建をめざす人々の声を聞いた。(豊田 護)
再建めざす人々
「日本の外交官がなくなったことについて、心から申し訳なく思う」
サマワの実態を語る3人(左からモハナッドさん、ラワッドさん、メイセムさん。1月8日・サマワ)
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1月8日、サマワのホテルに現在失業中という3人を招いた。人々の生活実態が知りたかった。その中の一人、メイセム(25)の声は日本人の死に触れ、沈んでいた。
「悲しみを踏まえたうえで一つお聞きしたいことがある。日本政府は軍隊を送ってくるというが、日本の国民は同意しているのですか。国民投票で決まったのですか」
はっとした。青年の言葉は淡々としていた。何人かの日本人ジャーナリストが同席していた。答えを返すのに、間が空いた。答えは簡単、「ノー」だ。
だが、軍隊を持てないはずの国が国民の反対を押し切って海外派兵をするでたらめさ。予想される次の問いの答えを探しあぐねつつ、「世論調査では国民の6割が反対している」と答えた。
「ということは、日本の人には自由がないということですね。そうであれば、イラクの自由も認めないということではないでしょうか」
約束破る占領軍
衝撃だった。”そのとおりだ”と大きくうなずいた。自衛隊派兵は、イラクの問題ではない。日本の問題なのだ。日本国内の派兵反対行動を伝えようと用意していた。だが言葉をはさむ間はなかった。青年は途切れなく言葉を続けた。
爆撃で破壊された家の前で遊ぶ子どもたち(1月8日・サマワ)
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「国民の努力で、日本政府の考え方を変えてほしい。どんな変化でもいい。軍隊ではなく、技術者なら大歓迎だ。小泉首相にお願いしたい。他国に自由を与える前に、日本国民に自由を与えてほしい。
アラブ人はこう考える。何も持っていない人が他人に何かを与えることはできない」
同席したモハナッド(23)は「米軍やオランダ軍が来る時、まずメディアが来て希望を与えていった。だが、状況はいっそう悪くなっている。今日本のメディアがどんどんやってきて同じことが繰り返されようとしている」といい、ラワッド(28)は「米軍は約束を守らなかった。日本も期待にこたえられないなら、何しに来るのだ。何も変わらないとサマワの人が知れば、何が起こるかわからない」と語った。
頼んだ覚えはない
ホテルに来た3人の声は決して特別なものではない。サマワの街角で「約束を守ってくれ」という声をたくさん聞いた。メディアが期待をあおっていることも間違いない。
メイセムが語気を強めていった。「私たちは、雇用をめぐんでくれといっているのではありません。助けてくれといったこともありません。なぜ、どんどん軍隊ばかり送ってくるのですか。私たちの安全以上に日本人の安全が大切と思うから、約束を守れと言っているのです」
”自由だ、復興だ”と侵略し占領したのは米軍やオランダ軍ではないか。では自ら掲げた”自由”や”復興”はどうなったのか。罪もない市民が殺され、生活は悪くなるばかりではないか。せめて約束ぐらい守ったらどうだ。守れないなら実力でも排除する―そんないら立ちと決意が言葉ににじんでいた。
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「われわれは物乞いではない」。サマワに限らず、イラク各地で聞いた言葉だ。豊かな資源と人材をもつイラク民衆の誇り高さが表現されている。
それだけではない。占領軍はいま、イラク社会に民営化などグローバル資本主義の「ルール」を持ち込もうとしている。統治機関には利権集団をとりたて、腐敗を拡大・深化させている。
再建すべきは施設だけではない。経済弱者をつくらず、正義が貫かれる健全な社会を再建するために、今イラクの人々は困難な闘いに踏み出している。 (続く)
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