2004年02月20日発行827号
ロゴ:占領拒むイラク民衆

全土に広がるレジスタンス 第6回

【街全体が米軍の犠牲者(ファルージャ) / 「日本は一体、何をするつもりだ」】

イラクは今、軍事占領下にある。それは、単に軍が居座っている状況をいうのではない。圧倒的な威力の火器で武装した集団が、暴力と恐怖で民衆を支配する社会を意味する。イラク全土に広がる反占領レジスタンス(抵抗運動)を無差別殺りくで押さえ込もうというのだ。戦闘による米兵の死者は約250人、イラク民衆の犠牲者は1万人を超えている。その実態を報告する。     (豊田 護)


 バグダッドから西へ約50キロ。レジスタンスの拠点といわれるファルージャに向かった。

 バグダッドからファルージャにかけて、沿道にはいくつもの工場あとがあった。日用雑貨品やセメントを作っていた。経済制裁の期間、イラク国民の生活を守った。この戦闘で破壊されたという。

「米兵に投げ飛ばされ、腰の骨が折れた。所持金を全部盗られた」と訴える老婦人                  (1月2日・ファルージャ)
「米兵に投げ飛ばされ、腰の骨が折れた。所持金を全部盗られた」と訴える老婦人
                 (1月2日・ファルージャ)

 「米軍による犠牲者に会いたい」。店の前に座り込んでいる男性に声をかけた。事前情報はまったくなかった。

 「この街から2千人もの男たちが理由もなく、連行されている。サダムのみすぼらしい姿を公表したことに抗議するデモにも米軍は発砲し、30人ほど負傷者が出た」

 男性は知人宅へと案内する車中でも話を続けた。「米軍はサダムだけでなく、イラク人全体を侮辱したんだ。やつらが来て変わったことといったら、汚職・泥棒・石油不足。悪いことばっかりじゃないか」

腰骨折られた老婦人

 住宅街の一角に着いた。この家を50人もの米兵が取り囲んだのは、2か月前のラマダン(断食月)の時だった。

 ベッドの上に老婦人が座っていた。泣き声を上げて訴えてくる。「米兵が私を投げ飛ばし、腰の骨が折れた。家中を探し回り、ありったけの金を残らず盗っていった」

 アシーア(73)は事件の概要を語った。「息子のサーレムにRPG(対戦車砲)を隠してくれと頼んだ友人がいる。家に持ち帰ったその日の夜中、1時半ごろ米軍がヘリコプターでやってきた。サーレム(48)と弟のターレム(46)、それにサーレムの息子・オマール(23)を連行していった。家族のIDカードや携帯電話まで持っていった」

 サーレムの妻が奥から顔を出してくれた。「あなた方が日本人だから出てきた。米国人なら出て行ってもらう。米国がこの国を占領したいなら勝手にするがいい。欲しけりゃあげてもいい。でも民衆に屈辱を味わわせることだけはやめてほしい」

 侵入した米兵をみて、3歳の子はおびえて母親の胸に顔を埋めていた。10歳の子は米兵に軍靴で頭を踏みつけられた。アシーアは言った。「息子たちを釈放せよ。私に銃があれば、米国人を殺してやる。米国人はイラク人に屈辱を強いている」

ファルージャ市内の露店商
ファルージャ市内の露店商

 誇り高いファルージャの人々ではあるが、最初から反米であったわけではない。

 街にやってきた米軍は、暗視スコープで家の中をのぞき、ポルノ写真を子どもたちに見せた。住民は、小学校に居座る米軍に学校再開のため退去を求めた。昨年4月28日のことだった。米軍は子どもも含め10数人を射殺した。30日に行われた抗議デモにも発砲し、2人を撃ち殺した。

 「サダム支配からの解放」、「自由と民主主義」をもたらすはずの占領軍は、暴力と恐怖に輪をかけ、不道徳と退廃を持ち込んだ。

「ここは俺たちの国」

 テロリストの容疑で逮捕された宗教的指導者の家を訪問した。大きな広間に通された。一族や地域の人々が集う公民館のような役割を果たしていた。この家から10人の男たちが連行された。誰かの密告だった。だが、誰もテロリストではないし、ニュースで知ること以外何も知らない。すでに3か月間拘留されているが、解放される時期はわからないという。

 食事で歓待された。深刻な様子はない。よくあることなのだろうか。無実が明白だから安心しているのだろうか。

 突然、知らせがきた。30分ほど前、米軍ヘリが撃ち落とされた。テーブルについた数人の男性たちが、うれしそうな顔をした。

 「どんな人たちがやったのか」と聞いてみた。「私たちは何も知らない。それが真実だ」とニヤリと笑った。

 街全体が、米軍の犠牲者であり、その関係者であるかのようだ。米軍に対する怒りは、どこでも聞くことができる。

 そんなファルージャで、インタビューを拒否されたことがある。家の玄関口でこういわれた。「日本は米国と一緒になってイラクを侵略した最初の国だ。そのうえ経済制裁で長年苦しめた。日本はいったい何をするつもりだ」。目には涙が見えた。”ここは俺たちの国だ。勝手なマネはさせない”。そんな悔しさが伝わってくる。   (続く)

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