| 湾岸戦争復員兵の子ども | 湾岸戦争以外の復員兵の子ども | 倍率 |
自然流産 |
男性 | 11.9% | 7.7% | 1.5 |
女性 | 14.6% | 11.1% | 1.3 |
死産 |
男性 | 1.4% | 0.8% | 1.8 |
女性 | 1.4% | 1.0% | 1.4 |
報告されたすべての形成異常 |
男性 | 9.0% | 4.0% | 2.3 |
女性 | 8.7% | 3.6% | 2.4 |
|
うち 中等度・重度 |
男性 | 3.7% | 2.1% | 1.8 |
女性 | 4.0% | 1.7% | 2.3 |
湾岸戦争復員兵を襲ったのは自らの病気だけではありませんでした。よりつらいのは、彼らの子どもたちにもさまざまな健康被害が現れたことです。それらは、流産であったり、形成異常(「奇形」)であったり、成長過程で症状が現れたりしたことです。
湾岸戦争症候群と同様に、この事実を薄めようとする米軍や政府の圧力はたいへん強いと思われます。例えば、米軍研究所からこの問題をテーマとした大規模な調査結果が1997年に医学雑誌の中で最も権威ある「ニューイングランド医学雑誌」に掲載されました。結論は、湾岸戦争復員兵の子どもたちの先天性異常発生頻度は湾岸戦争に行かなかった復員兵と差がないというものでした。
私も最初にこの論文を読んだときは、その雑誌の権威としっかりした形式に圧倒され、問題点を明確にできませんでした。しかし、インフルエンザワクチンなどの調査でいかに権威のある雑誌でも嘘をつくことは知っていましたので、よく調べてみました。すると、5か月後発行の同じ雑誌にイギリスの三人の研究者から、この論文は生きて産まれてきた子どもばかりで評価されており、先天的な異常により流産・死産した子どもが無視され、全体の3分の1にものぼる除隊した兵士を除外しており、このような調査は欠陥であるという批判が掲載されていました。(ここらは日本の雑誌と違うところです)
遺伝子障害性が関与
2001年になって、米退役軍人復員局のカン氏らは、流産・死産と退役軍人を除外しない研究を「Annals of Epidemiology」という専門誌に発表しました。結果は湾岸戦争復員兵の子どもの流産が男性で1・5倍、女性1・3倍、死産は男性1・8と女性1・4倍で、先天性形成異常は男性で2・3倍、女性で2・4倍というものでした(表参照)。間接的ですが、湾岸戦争は遺伝子に障害を与えたことを米退役軍人復員局が認めたことになります。
科学的なのは後者の方で、前者は世界一の権威をもつ雑誌に掲載されたとはいえ疫学調査の基本を無視して、嘘をついたことになります。当初は当たり前の調査をしたのですが、おえら方に都合の悪い結果がでたので圧力がかかり修正したことも考えられます。
これらは劣化ウランと何の関係があるのだ、と言われる方もおられるでしょう。確かに劣化ウランと直接的な関連を示した論文ではないのです。しかし、湾岸戦争に参加した兵士の子どもたちに先天形成異常やさまざまな病気が発生していることは、イラクの子どもたちの状況と似ており、劣化ウランの遺伝子障害性が強く関与していることの傍証になるのです。逆に、この研究結果がなければ、米政府は先天異常の増加そのものを否定し、ひいては劣化ウランの害を否定する材料に使うでしょう。
以上は、湾岸戦争に従軍し、短期間のみイラクにいた兵士たちの話でした。今日の戦争は、戦闘による殺傷だけでなく、戦後にも勝者の兵士とその次世代の身体をさえ静かに蝕むものなのです。次回は、戦場となったイラクなどで起こったことを見てゆきます。
(医療問題研究会 林敬次)