ロゴ:カルテの余白のロゴ 2004年02月27日発行828号

『がんと向き合う(中)』

 自分ががん(癌)と知らされたら、「このまま、死ぬかもしれない」という不安と恐怖で、たいていの人はすっかり動転してしまいます。しかし、それぞれに必要な時間をへて、がんになった自分が、その先、何をすれば良いかを冷静に考えはじめます。

 ごく早期のものでは、完治するための選択肢(手術や抗がん剤で確立された方法)はシンプルで、迷いの生じる余地はあまりありません。がんとどう付き合っていくかの個性がとりわけ発揮されるのは、いくつかの選択肢がでてくる、少し進行期が進んだ場合です。

 「この進み具合では、手術は無事終わりましたが、抗がん剤の治療を追加したほうがいいですね」といわれた患者さんには、いくつかの違ったお返事があります。

 A(65歳)「薬を使っても百パーセント治る保証が無いのなら、このあとは、まず身辺整理をしておきたいし、どうしても行っておきたいところに旅行します。今なら、からだは元気ですから。強い薬はその後にします」

 再発するとはかぎらなかったのですが、形見わけから家中の大掃除も徹底してされました。2年近くたって、腹水が急にたまって再入院されたとき、「もう、やり残したこともない。薬の治療をよろしく」と言われました。

 B(54歳)「からだが動くかぎり、仕事をしていたいんです。若い子に、まだまだ伝えたいことも、いっぱいありますし。抗がん剤の治療を続け、体力が続くかぎりがんばります。でも、そのために入院ばっかりじゃ時間がもったいないので、薬のための入院はなるべく避けて、最小限にしてください」

 入院は治療の日だけにして、あとはからだの調子に合わせて、ほとんど仕事に行かれたBさん。1年もたたないうちに転移をきたしましたが、最初の希望をつらぬかれて、薬のやり方や量を変えながら最後まで通院、仕事に没頭されました。

 同じように薬の治療をされたCさん(49歳)「家族ががんばれって、みんな応援してくれてます。最高の条件で治療に集中するのが、わたしの仕事です」と入院を続け、ほとんど外出もされません。気分転換や万一の準備をそれとなくすすめましたが、Cさんにとって今を最高に生きるのは病院での闘病なんだと、すぐわかりました。 

 よほどの終末期でない限り手術後は1〜2か月で普通の生活にもどれることがほとんどです。抗がん剤の治療中も、やり方によって自分の希望する生活を維持できます。自分が今、どんな生活を大切にしたいかを伝えられることが、がんと共生する第一歩でしょうか。

(筆者は、大阪・阪南中央病院産婦人科医師)

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