2004年02月27日発行828号
ロゴ:占領拒むイラク民衆

全土に広がるレジスタンス 第7回

【秩序と治安を破壊した占領軍 / 撤退なしに自由も安全もない】

 「治安悪化」がいわれるイラクで、イラク軍や警察への攻撃事件が相次いで起こった。イラク人への攻撃に「占領軍が引けば、内戦状態になる」と軍事占領を正当化する声も聞かれる。はたしてそうか。反占領レジスタンス(抵抗闘争)の拠点といわれるラマディの街で、弁護士・警察官の話を聞く機会があった。「治安悪化」の原因は占領状態にあるためだと彼らは口をそろえた。    (豊田 護)


補償を拒む米軍

 夫を米軍に殺された妻の紹介で、弁護士を訪ねた。昼下がりの時間だった。家は静まっていた。突然の訪問にとまどっているのだろうか。しばらく待った。

家族を米軍に虐殺された女性
写真:両手を広げ訴えかける女性

 弁護士はムハマッド(30)と名乗った。彼の父親は判事だったが、サダム政権に従わず処刑されたという。部屋にはアリと呼ぶ警察官もいた。14年間警察官を勤め上げ、分署長の役職にある。実直そうな風貌だ。

 弁護士や警察官という立場もあるのか、表だって米軍の批判はできない。写真撮影は拒否された。名前も本名かどうかわからない。

 ムハマッドは、米兵の犯罪について、ゆっくりと話し始めた。「米兵を裁判にかけることはできない。米軍が犠牲者遺族に補償することもあるが、まるで好き嫌いで判断しているようで、基準がない。求めに応じて要求リストを出しても、一蹴される。気が向けば1500ドル払うこともあるが、まれなことだ。ラマディで米軍に殺された人は1千人を下らないだろう。そのうち、金を受け取ったのは150人だけだ」

 ムハマッドは、米軍の気まぐれな対応に怒りを隠さない。受け取るとき書類にサインを求められるのだが、書類の内容は見せてくれない。書かれた金額がいくらなのか、何のための金なのかもわからないという。

 「本当は3千ドルだ」と同席したアリが言葉をはさんだ。差額は誰かの懐にはいるのだろう。請求権放棄の文言が書かれているかもしれない。

 「治安回復のためには占領軍が必要だと日本では報道されているが、どう思うか」と話を向けた。

 アリはこう答えた。「確かに、戦前に比べ強盗件数は10倍にもなった。警官でさえ強盗にあう世の中だ。それに対して米軍が何かをしてくれるのかと言えば、何もしない。いかなる意味でも、何の役割も果たしていない」

強盗を警官に採用

密告を促す看板
写真:米兵が何者かを後ろ手にして地面に押さえつけている絵が書いた看板。ペンキのようなものがかけられている

 アリの同僚がやってきて、話に加わった。「米軍が撤退しない限り、自由と治安は実現しない。われわれは平和な国民で一つになっていたが、今は分割されようとしている」。アリは「私の場合には、強盗犯が上司になっている。そんなやつの命令を聞かねばならない。誰が任命したのかって? 米軍さ」と吐き捨てるようにいった。

 バグダッドからやってきた多数の暴徒を捕らえ投獄した。ところが米軍は彼らを釈放し、兵士や警官として採用したというのだ。

 「私の扱った事件でアブグレイブ刑務所に送られた懲役15年の受刑者が1週間もしない内に道を歩いていた。米軍が釈放したのだ」。ムハマッドは、ため息混じりに言った。一方で、何の罪もない市民が何か月と拘留される。法秩序を破壊している張本人が米軍であることは間違いない。

 「警官や兵士が米軍の弾よけに使われていると聞いたが本当か」と聞いてみた。

 アリの同僚が答えた。「その通りだ。米兵がいることでわれわれの命は危険にさらされる。中には米軍から金をもらって、イラク人を襲っているやつもいる。イラクで今起こっている犯罪は全部、米軍が占領しているからだ。イラクに独立が与えられれば、治安の問題などすぐに解消する」

「日本は派兵するな」

 2月10日、バグダッドの南40キロにあるイスカンダリヤの警察署前で爆発事件があり、採用応募に並んだイラク人約50人が亡くなった。11日にはバグダッドのイラク兵採用本部前で爆発事件があり、配属を待つイラク人が約50人死んだ。14日にはファルージャで警察署が襲われた。

 一連の事件の関連は定かではない。イスカンダリヤの爆発は、米軍のミサイルだったとの住民の証言をワシントンポストなどが伝えている。ファルージャの襲撃事件では、レジスタンス組織が犯行を否定する声明を出している。

 ラマディで聞いた弁護士や警察官の言葉が思い出される。占領軍がいる限り、国民の分断と社会の混乱は続く。「治安の回復」というならまず、占領軍が撤退することだ。

 そして、警察官たちは言った。「日本の軍隊は、イラクに来る必要はない。友情を保ちたいのであれば来るな。イラクに派兵すれば、占領軍の仲間に加わることになる」

 どんな形であれ、占領政策に加担する者は憎しみと反感の対象となるのは間違いない。         (続く)

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