復員兵とは違い、戦場となったイラクで生活している人たちにはもっと多くの健康破壊が生じていることは容易に想像できます。特に戦闘が激しかったバスラ周辺での先天性障害の子どもたちが森住卓氏の写真集などで紹介されました。無脳症や水頭症などの写真は強い印象を与えたと思われます。
しかし、無脳症は米・仏のデータで1万人出生に3人程度だと知った私には、そういう赤ちゃんがいるかどうかではなく、増加しているかどうかが問題と思われました。これに対しては、バスラ教育病院のアル・アリ医師などから、その病院での奇形やガンの増加が報告されました。確かにこれらのデータは増加していることを強く示唆するものです。しかし、これらの増加には本当の増加以外に、例えばそれまで他の病院にかかっていたが、異常出産を疑った妊婦がバスラ教育病院に集まってきたとも考えられます。その地域の子どもの全出生数に対して何人の先天障害があったかというデータがあればより正確です。そのデータを探していたところ、昨年6月にニューヨークで行われた劣化ウラン弾のシンポジウムに発表されたトーマス・ファシイ氏のデータを知りました。
図はそのデータで、千人の出生に対する先天性形成異常の頻度の推移です。1997年までの数字から判断して、中・重度形成異常だと思われます。発生率は98年から急速に増加し、2000年には1990年の5〜6倍にも増えています。再び全土で戦闘が繰り広げられ、劣化ウラン弾がまき散らされたイラクで生活する人々の子どもたちの今後はどうなるのでしょうか。
回収不可能な劣化ウラン
ところで、先天性形成異常で、あまりにまれな種類が現れれば、特別な原因を考えなければなりません。その代表が、肩から直接手が出ているフォコメリアなどの四肢形成不全です。
かつて、オーストラリアのマックブライドは短期間に3人の四肢障害を見て、これは何らかの毒物によるものだと考え、睡眠薬サリドマイドを原因と推定し、製薬会社に報告しました。ドイツのレンツ博士がサリドマイドの禁止に向けて運動を展開したことは有名です。証拠がはっきりしないとして長く使い続けた日本で多くの患者がでました。被害者の1人増山ゆかり氏は、薬害追放の闘いを続けておられます。
その後この症状はダイオキシン汚染のベトナムでも現れました。今、湾岸戦争の米軍兵士とイラク市民の子どもに現れているのです。本紙豊田記者が撮った写真(826号)、下肢が一本になった子どもも特別な四肢の形成異常だと思われます。
あの当時のFDA(米食品医薬品管理局)は、安全性のデータが不十分と、サリドマイドの米国内での販売を認可せず、多くの胎児を守りました。今、米政府は明白に有害である劣化ウランを、有害だという明確な証拠がないからと撒き続けているのです。しかもこの劣化ウランはサリドマイドと違い、回収不可能であり、かつ永久に地域に残存する毒物なのです。
(医療問題研究会 林 敬次)