2004年03月12日発行830号

【劣化ウランの毒性を告発する(5) イラクの人々襲うガン】

 イラクの人々を襲っているもう一つの健康破壊はガンです。

 図は、昨年6月ニューヨークの国際劣化ウラニウム・ウラニウム兵器カンファレンスでFasy TMが報告したデータをもとに、15歳未満のバスラでのガンの発生率と日本の発生率を医問研の山本英彦氏が比較したものです。日本の白血病やその他のガンはこの十年間に増えていませんが、バスラでの発生率は1995年頃から増え始め、99年より急増しています。主に白血病が増加しています。

 ガンの増加も、劣化ウランによるものであると考えるべきなのですが、先天性形成異常とちがい、湾岸戦争復員兵の調査などでガンの増加を示す医学的報告はありません。

 2001年にカーンらが発表した米軍湾岸戦争復員兵の死亡調査、03年にマクファーレンらが発表した英軍のガン発生率の調査も、ガンが増加していないとしています。また、今年1月に発表されたバルカン戦争に参加したスウェーデン兵士の調査でも、白血病などの血液ガンは増加していないとしています。しかし、今後もガンの長期的追跡調査は必要で、睾丸のガンは約2倍に増えているとも書いています。実はこの睾丸のガンはグレイらの米軍復員兵の入院調査報告でも2倍以上になっており、偶然とは思えません。

 たとえ、兵士のガンの増加はなかったとしても、イラクでのガンの増加は劣化ウランによるという別の証拠が多々あります。第一に、劣化ウランの実験的研究で発ガン性を示す証拠があります。米軍放射線研究所のミラーらは、人の細胞に対し劣化ウランはガン遺伝子の発現や細胞の無秩序増殖などを増加させ、ガンを作る作用があると発表しています。さらに彼らは、腫瘍を作ることで知られているニッケルよりも、劣化ウランの方がさらに発ガンに関連する染色体異常を増加させることを証明しました。米軍の研究者たちでさえこのような報告をしているのです。同様にハーンは、発ガン性があることで恐れられている放射性物質トロトラストと劣化ウランをラットに埋め込んで、重金属のタングステンより多くの悪性の肉腫を作ったと報告しています。

ガンの原因に関与

 第二に、ドイツのシュレーダは、湾岸戦争症候群のリンパ球の染色体異常が増加していることを示しました。この染色体異常は、広島・長崎や放射能事故で放射線被曝によって出現することがわかっているものです。第三に、チェルブイリ事故や核施設からの放射能漏れによって、子どもの染色体異常とガンの増加が観察されています。これらは、放射線量としては大変少ない被曝ですが、放射性物質が身体の中に入って、慢性的に周囲の細胞を照射し続ける「内部慢性被曝」によって強い発ガン性をもつものであり、まさに劣化ウランの微粒子による被曝と同じものなのです。

バスラでの悪性腫瘍の増加(日本との比較)
バスラでの悪性腫瘍の増加(日本との比較)

 以上より、現在イラクで増加している白血病などのガンの原因に劣化ウランが関与していることはまちがいありません。昨年には劣化ウランがイラクの多数の市街地で使われました。早急に、可能な限り劣化ウラン弾の除去をしなければなりません。

(医療問題研究会 林 敬次)

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