イラクの「暫定憲法」となる基本法制定の動きが伝えられている。これはイラク民衆の願いとは無縁であり、占領軍と統治評議会が6月末の「政権移譲」を演出しようとするものにほかならない。占領当局は、宗派間の対立や民族間の対立をことさら強調して、イラク民衆を分断し、占領支配への怒りをかわそうとしてきた。基本法が採用する連邦制はイラクの分断につながるものだ。連邦制の焦点となっているイラク北部キルクークの街を訪ねた。(豊田 護)
10万人の大集会
バグダッドから北へ約250キロ。12月31日、油田の街キルクークは騒然としていた。
競技場のようなスタンドのある広場で集会がもたれた。近隣各地から10万人近い人々が集まった。集会後、主催者のアルシャイ・ヤシャール・ユーセフ・ラダ(40)に聞いた。「私はムスリムの代表であるし、ここキルクーク75万人の代表でもある。私たちは、(クルド人の要求する)連邦制に反対している。キルクークはみんなのものだ。クルド人のためだけのものではない。私たちは分裂してはならない」
キルクークには、アラブ・トルクメン・クルド・アッシリアの4つの異なる”民族”が混住している。人口の80%はアラブ人とトルクメン人が占める。クルド人は18%程度に過ぎない。バース党政権がこの街の支配を確実にするために、アラブ人移住政策をとってきたからだった。
占領後は、逆にクルド人が流入してきた。トルクメン人の家を何の書類もないまま取り上げてしまう事件も起こっている。また、かつてクルド人を追い出したアラブ人が、別のクルド人に家を転売したために、元のクルド人が新しく入居したクルド人を追い出す事例もあるという。
土地をめぐる紛争は、クルド人の”失地回復”と単純化することはできない。時間の経過は新たな生活を生み出しているからだ。サダム政権下の負の遺産とすれば、占領軍を撤退させた後のイラク人による政府がルールを作る以外に解決の道はない。
デモに発砲、死傷者
このキルクークを、クルディスタン民主党やクルディスタン愛国党などの政治勢力は、連邦制を採用することでクルド自治区に取り込もうとしている。12月22日には、連邦制を要求する数千人のデモを行った。以後1週間、街は緊張が続いていた。そしてこの日、アラブ人・トルクメン人による連邦制反対デモが銃撃を受け、20人以上の死傷者が出た。
銃撃事件に抗議して市庁舎前につめかける人びと
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騒然とする市庁舎に入った。「クルド人の警察官が撃った」と市評議会のムスタファ・カマエイチリ議員が言った。イラク警察とはいえ占領軍の指揮下にある。占領軍の責任は免れない。アラブ人・トルクメン人の団体は、「どのグループの人であっても人権が守られるべきだ」と占領当局に詰め寄った。対応に出たメイビル大佐は「2度と起こらないよう留意する」と答え、その場をとりつくろった。
「イラク軍が解体され、武器がクルドに流れた」「統治評議会はイラクのためには何もしない」「クルド人のためだけに就職の機会を作り出している」…。デモ参加者の不平・不満をたくさん聞いた。
トレード・センターのプロジェクト責任者であった女性は、「同じポストにいたいなら、クルドの国籍に変えろ」と言われた。それを拒否し売店の店員に降格になった。
「日本は占領政策に加担しないでほしい」と語るラダさん(右端) (12月31日・キルクーク)
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これは分断支配だ
占領軍はクルド人を優遇している。クルド人の人権や自決権を尊重するためではない。クルドを利用し、自らの支配権を確保するためだ。クルド人を最も抑圧しているトルコ政府を米政府が支援していることを見れば明らかだ。
連邦制に反対するラダはいう。「私たちは占領政策によって分断させられている。日本は占領政策に加担しないでほしい」
次の日、バグダッド市内で出会ったクルド人青年アリ・ムハマッドは言った。「連邦制には反対だ。イラクは一つであるべきだ。米軍にはむかむかする。占領のやり方は、国際法にも反するものだ」
占領軍の最も恐れることはイラク民衆が反占領で一つにまとまることだ。分断支配を狙う占領に日本も加わってしまった。「日本の首相にぜひ伝えてくれ。軍隊を送るなと」。キルクークの街で聞かされた言葉が重い。 (続く)