2004年03月19日発行831号
ロゴ:占領拒むイラク民衆

【全土に広がるレジスタンス第10回 イラク知識人が語る占領の現状 / 「米国は権力の亡者になった」】

 イラクを占領する米軍は、6月30日の「主権移譲」により「占領終結」を演出しようと画策している。これによりイラク民衆の手による再建が始まるのかといえば、決してそうではない。仮に占領軍が表舞台から姿を消したとしても、米国による支配は続く。この事態をイラクの知識人たちはどのように見ているのだろうか。リーダー的存在であるバグダッド大学政治学部ワミーズ・ナズミ教授の自宅を訪ねた。(豊田 護)


ワミーズ教授は語る

 「米国は彼らの右ポケットから左のポケットに(権力を)移し替えているにすぎない。権力の移譲はない」

占領について語るワミーズ教授(1月5日)
写真:椅子に腰掛ける教授

 6月の「主権移譲」についてどう見ているかと聞いてみた。ワミーズ教授は迷わず答えた。ゆっくりとした穏やかな口調だった。彼は続けた。

 「人民に権力を返すというのなら、世界中どこでも選挙を通じて民衆が代表を選ぶのが普通だ。しかし、米国はわれわれが選挙をできる体制にないと言っている。この国はまだ後進国であった1924年という時期に憲法委員会を選挙で選んだ経験がある。米国は、国勢調査をしていないから選挙の体制がとれないという。だが、わが国には前政権から続いている食料配給のための優れた配給カード制度が生きている。国勢調査のかわりとなりうるものだ」

 自宅を訪ねたのは1月5日の夜だった。イラクではその後、選挙実施を求めるデモが頻発した。3月8日、統治評議会が署名した「基本法」には、来年1月末までに直接選挙を実施することがうたわれた。占領当局は、「選挙」により、現在の統治評議会を延命させようと狙っている。だがイラク民衆は親米亡命イラク人中心の統治評議会を全く信用していない。

 「米国が選挙をしたくない本当の理由は、もしイラク民衆がブッシュ政権の言うことをきかない政治家を選んだとしたら、それは彼らにとって”民主主義”ではないからだ。冗談を言っているのではない。実際米国は、今選挙をしたら組織の強いバース党かイスラム主義政党が勝つと思っている。米国はそのどちらも歓迎しないと公然と言っている」

分断支配の狙い

 サダム・フセイン政権下にあっては、公務員は大学教授も含めてほとんどバース党員となった。ワミーズ教授は違った。サダムの政策に反対する意見を述べたこともあった。50年代から60年代にかけて、共和制革命の時期に政治活動を経験した。部屋にはアラブ民族の統一をめざした故ナセル・エジプト大統領の肖像画が掲げられていた。

白血病の子どもとその父(1月5日/バグダッド・マンスール地区の子ども中央病院)
写真:目が落ち窪んだ5歳位の子どもと、若い父親。子どもの右手の甲に点滴の針

 米国はイラクをどう支配しようというのか。教授は次のように指摘した。

 「米国はこの国をいくつかの国に分割して支配したがっている。それも地域による分割ではなく、宗教や人種などによって分けようとしている。クルド対トルクメン、シーア派対スンニ派などのように対立させて、分裂させようとしている。国勢調査が新たに行われたわけでもないのに、シーア派とクルド人により多くの分け前が与えられている。経済制裁のさ中、国連とサダムの間にはクルド人の分け前は12・5%という合意があった。だが今は、占領行政官の鶴のひと声でクルド人に24%の分け前が与えられている」

 油田の街キルクークではクルド人とアラブ人・トルクメン人との対立が煽られていた。「基本法」は、クルド人の要求する連邦制を採用した。

 「ソ連の崩壊以後、米国は権力の亡者になった。ソマリア、アフガニスタンなどを攻撃してきた。新保守主義者とよばれる一握りの人たちが対話を欲せず、世界全体を抑圧しようとしている」

「イラクは世界の問題」

 石油価格の支配がいかにグローバル資本にとって必要不可欠なものであるか。ワミーズ教授はそれが米国のアラブ社会への介入の理由だと説明した。そして、イラク再建に向けた闘いの展望を次のように見いだしている。

 「私はイラクのことだけを考えているわけではない。いまはイラク人とともに世界の平和を愛する人たちが大事なのだ。私が英国に住んでいた頃には、英国で200万人がデモをしたとか、スペインで500万人がデモをしたことなど聞いたことがない。イラクは世界の問題なのだ」

 対イラク開戦1周年の3月20日、世界各地で占領反対の闘いが取り組まれる。イラク国内においても分断を許さぬ統一した反占領の闘いが、きっと広がるに違いない。宗派や民族による分断をはねのけ、民衆の力が一つとなるとき、イラク人の手による再建の道すじは一層確かなものになる。そんな確信を得た。(続く)

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