2004年03月19日発行831号

INTERNATIONAL

【ハイチのクーデターを操る米国 新自由主義に抵抗の政権を排除】

 反政府勢力との武力衝突を避けるために亡命したと伝えられていたハイチのアリスティド大統領は3月1日、「自分の意思で出国したのではなく、米兵に拉致された。米国によるクーデターだ」と語った。

 2月下旬に起きたハイチの"政変"の本質は、グローバル資本の支配に抵抗するアリスティド政権の排除にある。そして、ハイチの反政府勢力に資金を提供し、育成してきたのは歴代の米国政府だ。

軍事独裁政権を支援

 ハイチを29年間にわたって支配していた、人権抑圧のデュバリエ軍事独裁政権。米国政府は同政権を反共政権であるとの理由で容認し、支援していた。その政策に変化が訪れたのは、1980年代のことだ。

 安い労働力を求めて流入し始めた米国資本の周辺に新たな地元産業が起こり、労働者も増加していくにつれ、変革を求める運動も盛り上がっていった。85年11月に発生した学生のデモへの発砲事件をきっかけに全国的に抗議行動が広がり、反政府行動へと発展していった。米国資本も活動の自由のために、変革を求めた。米国は、見限ったデュバリエ一族を軍用機に乗せ、国外に追放した。

 その後も軍事政権が続いたが、民主化を求める民衆の抵抗はやまず、90年12月に国連と米州機構の監視下で初めての大統領選挙がおこなわれた。この時、資本家代表で米国の支援を受けた候補を破って勝利したのが、貧困層に支持されたアリスティド神父だった。

CIAが武装集団育成

 政権に就いたアリスティド大統領は軍政時代の人権抑圧と腐敗の追及に乗り出すが、これを恐れた軍部は91年9月にクーデターを起こし、アリスティドを追放。武装集団を組織して民衆運動を弾圧した。しかし国際社会はこの軍事政権を認めず、国連総会は全会一致で経済制裁を決議。94年5月には安保理が全面禁輸を決議する。

 難民の大量流入に手を焼いた米国は"治安回復"のために海兵隊を送り込んだが、武装集団の事務所を捜索した際にCIA(中央情報局)がそれらの武装集団の育成に関わっていたことを示す文書が発見された。CIAが、民主的に選ばれたアリスティド政権の転覆という不法行為に関わってきたことが露呈したのだ。

 国際的批判を恐れた米国は、アリスティドを政権に復帰させざるを得なくなった。94年10月、アリスティドは米海兵隊に守られて帰国、大統領に復帰した。

教育のための融資を拒否

 しかし米国はそれ以降も、"貧者の味方"を掲げるアリスティド政権を転覆させるためにあらゆる手立てを尽くした。それは、同政権がグローバル資本の要求である新自由主義政策の受け入れに抵抗したからだ。

 米国は、ハイチが教育と飲料水の整備のために米州開発銀行に要請した5億ドルの融資に拒否権を発動して妨害した。また、あれこれと難癖をつけ、経済封鎖を継続した。国外からの援助も止まり、国民生活が困窮を極める中、アリスティド政権に対する不満が醸成された。

 軍部のクーデターに懲りたアリスティド大統領は国軍そのものを解体したが、職を失った軍人たちは反政府陣営に吸収されていった。資金を提供し、武装集団を育成したCIAの責任は重大だ。

  *   *   *

 いまハイチには米軍とフランス軍が送り込まれ、首都を制圧しているが、大統領支持派の住民は抗議のデモ行進を繰り返している。

 米ブッシュ政権が、反政府武装集団を育成し、民主的に選ばれた政権を転覆したというのが、今回のハイチ政変の本質だ。新自由主義政策を受け入れず、グローバル資本の支配に抵抗する国家や勢力はどんな手段を使っても排除するというのが、米国政府なのだ。  

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