米政府のもう一つの言い分は環境汚染はないということです。WHO(世界保健機構)だって大丈夫と言ってるじゃないの、というわけです。みなさんならどう反論されるでしょうか?
水にも溶けて拡散
まず、WHOだって、劣化ウラン弾が使われた場所は清掃作業が必要とか、子どもは劣化ウランに近づかないようにしなければならない、と言い始めています。とはいえ、WHOは全体的には環境汚染も否定しているのですから、ここは事実の反論が必要です。
慶応大学の藤田祐幸氏らが、昨年5月から6月にかけてイラクで放射能測定を行っています。その際、バクダット市内に多数の劣化ウラン弾が散乱していることを目撃し、写真やテレビカメラで撮影してこられました。藤田氏は、これらの劣化ウラン弾が地表や地中に残され、水と反応し地下水に溶け込んでいくことを大変心配されています。
その他、ウラニウム医学研究センターのドラコビッチ氏らのアフガニスタンとイラクの調査でも、劣化ウラン弾に貫かれた戦車の鉄板や戦車兵のものと思われる衣服から強い放射線が観測されています。
さて、ご存知のように劣化ウラン弾は鋼鉄などとぶつかり摩擦熱で500度以上になると燃え上がり、きわめて細かい酸化ウランの粒子になって環境中に飛び散ります。他方で、戦車などに当たらずに土中などに突き刺さった弾丸は、酸化し水に溶けて環境中に広く拡散してゆきます。しかも、この劣化ウランたるやその半減期は45億年、地球の年齢と同じ。劣化ウランは、ダイオキシンやPCB汚染以上に永遠の環境汚染源なのです。
調査すれば事実明らか
劣化ウランの環境汚染は、わかりきった話なのに、どうして米政府やIAEA(国際原子力委員会)は「科学的証拠に基づいて証明するものは存在しない」などと居直ることができるのでしょうか。それは、WHOがまともな環境調査をしていないからです。WHO以外の報告があるかどうか、医問研の柳元和氏は環境汚染に関する論文を調査し、報告を見つけました。
まず、イタリア国立環境保護委員会は2000年11月にコソボを調査し、地表の汚染を確認しています。被弾による汚染地区から数メートル以内でしたが、地表から10〜25センチまで劣化ウランが測定できたとしています。その他、イタリアのウルビノ大学、ギリシャのアリストテレス大学、オーストラリアIAEAそしてノルウェイ農科大学の調査で、局所的ですが劣化ウランを検出しています。
逆に、劣化ウランが検出できなかったという報告も少しはあります。とくに、水については否定的な報告ばかりです。ところで、以上の調査は、すべてコソボの調査でした。コソボでは約10トンの劣化ウランが使われました。300トン以上使われた1991年のイラク、その何倍か使われたアフガニスタンや昨年のイラク攻撃と比べて、その使用量は少なかったといえます。しかも、汚染を否定しているのには、NATO(北大西洋条約機構)軍の情報による劣化ウラン弾使用地域を調査したものもあり、調査地域のずれが予想されます。
汚染除去が必要
この際考えなければならないことは、劣化ウランは他の重金属と同様、水俣病の水銀中毒のように生物によって濃縮されていく可能性が高いことです。事実、コソボでは土から劣化ウランが検出されなかった所でも、樹皮とコケ類から検出された例があります。同じことは、核関連工場のそばの沼地にあるブラック・オークの木でも確認されています。これらの事実は、劣化ウラン汚染が環境を循環していくことを示しています。
いま早急にしなければならないことは、劣化ウラン弾の汚染除去と汚染地域からの住民の避難です。その実施義務が、汚染した張本人にあることは明白です。
(医療問題研究会 林 敬次)