2004年04月30日発行837号

【駐日パレスチナ常駐総代表部 ワリード・アリ・シアム代表に聞く 激しさ増すイスラエル軍の蛮行 すべての難民・被害者に補償を】

 自治区を隔離する「壁」の建設、イスラム組織ハマスの指導者ヤシン師の暗殺と、イスラエルによるパレスチナ抹殺・和平破壊の動きは常軌を逸する形でエスカレートしている。パレスチナ人民はこれにどう立ち向かうのか。昨年9月に8年ぶりに再開した駐日パレスチナ常駐総代表部のワリード・アリ・シアム代表に聞いた。(4月6日、まとめは編集部)

我々には抵抗する権利がある

◆最近のイスラエルの動きをどう見ますか。

 イスラエル指導部が平和を望むなら、彼らは誤った道を歩んでいる。

 93年のオスロ合意以降、イスラエルは入植地を拡大し、土地を没収し、ガザとヨルダン川西岸を封鎖し、検問所で人々を辱め、子どもや女性、老人を投獄してきた。2000年以後だけで8千人以上が拘束されている。家族も国際赤十字も面会できず、裁判も行われていない。こんな「民主国家」があるだろうか。

 彼らは家を破壊し、学校を破壊し、工場を破壊し、援助団体が建てた建物を破壊している。子どもや女性にも実弾を放ち、近づく者は誰でも殺している。使うのは最新鋭の精密兵器、タンク、ヘリ、ミサイルだ。パレスチナはこれらの兵器の実験場と化している。イスラエルは現在、世界10位の武器輸出国であり、世界4位の軍事大国だ。

 ヤシン師はハマスの精神的指導者であり、自爆攻撃を指令したことはない。イスラエルもこの点は全く立証していない。師は車椅子生活で、自力で食べることもできず、話すのにも時間がかかる。年老いた障害者を、しかも礼拝所から出てきたところを圧倒的な軍事力で殺害する。「民主国家」の恥ではないか。

 別の事件では、一人を殺すのにF16戦闘機から大型爆弾を投下した。巻き添えで子どもを含む約20人が死んだが、イスラエルは「戦争では誰もが代償を払わねばならない」と述べた。ナチスに迫害されたユダヤ人はどこへ行ったのか。かつて被害者にされた人々が今、新たな犠牲をつくる加害者になってしまった。

 そして壁だ。『シンドラーのリスト』という映画をご存じだろう。ドイツ軍はユダヤ人を捕らえ、ゲットー(ユダヤ人居住区)の周りに壁を作らせる。囲い込んだユダヤ人をトラックに乗せ、工場へ連行して働かせ、夜はゲットーへ戻す。イスラエルが現在やっているのはこれと同じだ。パレスチナ人居住区の周りに壁を作って押し込め、パレスチナ人労働者を連行して壁の建設や入植地建設などの仕事に就かせる。病院に行く妊娠中の女性を検問所で止め、胎児ともども死なせてしまう。平和を望む「民主国家」のすることだろうか。

 イスラエル人へのテロについてお尋ねがあるかもしれない。われわれはいかなる自爆攻撃、民間人殺害にも反対している。それは許すべからざる犯罪だ。しかし、国際法によれば、占領下にあるいかなる国も抵抗の権利を持つ。われわれは占領された領土内で最大限抵抗する。領土外、テルアビブのカフェで自爆する権利はないが、ガザや西岸の自分の家をタンクが襲ってくれば、われわれはこれに抵抗する権利がある。

パレスチナ国家樹立が和平の道

◆オスロ合意以降の和平プロセスが崩壊しています。打開の道をどこに求めますか。

 われわれの要求は、パレスチナ領土の占領を終わらせることだ。そのために国連その他の機関に働きかける。

 しかし、国連は49年以来今日まで、イスラエルを非難する900以上の総会決議、200以上の安保理決議を採択したが、一つとして実行されていない。イスラエルは国際社会の要請に従わず、思いのままに振る舞っている。一方で、イラクやリビアなど他の国々に対する決議は力によって実行されてきた。

 シャロンら極右勢力はオスロ合意に反対だった。パレスチナ国家ができればイスラエルは終わりだと考えたのだ。シオニスト運動の夢は、パレスチナからイラクに至る大イスラエルの実現にある。彼らはそれを捨てていない。

 しかし、パレスチナ国家の樹立こそイスラエルの存続を保障する。パレスチナを通してアラブ諸国への扉が開かれるからだ。私はオスロ合意の精神は今も生きていると考える。問題は、イスラエル側に平和への真のパートナーが見出せないことだ。イスラエルの裁判所は84年、サブラ・シャティーラの虐殺事件を調査し、シャロンに対しいかなる公職にもふさわしくないと宣告した。その人物が今イスラエルのトップに座っている。

 われわれパレスチナ人は50年、生き延びてきた。今後50年も生き延びていける。イスラエルは今のまま今後50年、生き延びられるだろうか。

 われわれは、イスラエルとの間で最終合意が交わされなければならないと考える。それは3か月か半年あれば実行できる。われわれの要求は以下の通りだ。

(1)イスラエルは西岸、ガザ、ジェリコ、エルサレムからすべての入植地を撤去する。

(2)イスラエルはエジプト国境およびヨルダン国境から撤退する。

(3)パレスチナは領空を持つ。

(4)パレスチナは領海を持つ。

(5)パレスチナは水資源の持ち分を有する。

(6)エルサレムはパレスチナの首都であり、イスラエルの首都としての地位を共有する。

 難民はパレスチナ領土への帰還の権利を持つ。この中には、現イスラエル領にかつて住んでいた難民も含まれる。

 イスラエルは、すべての難民、侵略により被害を受けたすべての人々に補償を行なわなければならない。

 シャロンはイスラエル人すべてを代表しているわけではない。私の知る外交官たちも含めて多くのイスラエル人が平和を望んでいる。そのような人々がいる限り、平和への希望はある。

アメリカにこそ民主主義を

◆民主化促進のためとしてブッシュ政権が打ち出した「大中東構想」について。

 われわれアラブ人、とくにイスラム教徒にとって、民主主義は宗教そのものの中にある。預言者ムハンマドは奴隷を解放し、奴隷制をイスラム法で禁じた。女性には教育や雇用、選挙、あらゆる分野で男性と対等の権利が与えられた。ムハンマドの死後、後継者は選挙で選ばれた。民主主義はわれわれの文化、われわれの社会に根差している。

 米国はどうだろうか。黒人に権利が保障されたのはいつか。女性に完全な権利が与えられたのはいつか。94年、アラファトが大統領に選ばれた選挙では女性が対立候補となったが、米国で女性が大統領選に立候補したことがあるだろうか。われわれに民主主義を教えるというなら、教える側の民主主義がどうなっているかを示してほしい。

 アラブ世界には黒人や有色人種も多くいるが、肌の色のため雇ってもらえなかったという労働者はいない。キリスト教徒もユダヤ教徒も平等に処遇されている。ただ、米国に支援された数々の独裁政権がわれわれのイメージをゆがめてきたにすぎない。

虐殺やめろと要求を

◆イラク戦争反対の運動が世界的に高揚しました。この運動に期待するもの、そして日本の人々へのメッセージを。

 世界のどの革命でも、民衆こそが世の中を変えてきた。世界の民衆が団結すれば多くの変化を生み出すことができる。戦争を止め、虐殺を止めることができる。各国の政府は支配を維持することにかまけ、軍事力はますます強化されている。その代償を払わされるのは民衆だ。団結し、助け合って、平和な地球をつくっていかなくてはならない。

 日本は原爆という大量破壊兵器によって何十万もの人々を失った世界で唯一の国だ。廃墟の中から世界有数の経済大国に発展した日本の政府と国民には、世界の不正をただしていく責任がある。

 パレスチナ人虐殺をやめろという要求を日本政府に伝えてほしい。パレスチナの土地を訪れ、パレスチナ人の家族とともに過ごしてほしい。オリーブやオレンジを植え、パレスチナの農業を再建するために力を貸してほしい。皆さんは多くのことができる。

◆ありがとうございました。

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