ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ 2004年07月23日発行847号

第32回『蘇れ!チョウセントラ(下)』

 仁川国際空港から仁寺洞にあるホテルへつくと夕暮れが迫っていた。チョウセントラがいるソウル大公園に行くにはもう遅い。すべては明日と、気を取り直して仁寺洞をぶらぶらしたが落ち着かない。

……北朝鮮から韓国にチョウセントラが贈られたのは99年だ。88年のソウルオリンピックでは、マスコットとしてトラの「ホドリ」が採用されている。国家の威信をかけたイベントに、国内にいない生き物を採用するわけがない。つまりは88年以前に既に、韓国にはチョウセントラがいたことになる。ううーん……どうやって手に入れた。

 ホテルに戻ると、抑えきれずに従業員たちを質問攻めにしていた。もちろん、私の質問に答えられる従業員はいなかった。

 ところが、よほど私の質問が関心を呼んだのか、従業員のひとりが資料を持って部屋にやってきた。ソウル大公園のホームページに、「ホドリ」は83年にアメリカの動物園からやってきたと書いてあるというのだ。真夜中にホテルのビジネスセンターでパソコンのキーボードをたたくと、すごい情報が目に飛び込んできた。日・韓共催サッカーワールドカップの真っ最中の02年6月28日に、「ホドリ」の娘「ホンア」が、北朝鮮から贈られたオスの「ライル」との間に「統一トラ」の兄妹を産んだというのだ。公募によって兄妹に付けられた名前は、統一コリアを意味する「コアとリア」。ますます夜が明けるのが待ちどおしくなった。

 ホテルから地下鉄を乗り継いで50分。ソウル郊外の果川にソウル大公園がある。猛獣舎は広大な施設の一番奥にあった。着くとそこにはふたつの展示施設があり、ひとつの施設には1頭のトラが寝そべっていて、もう一方の施設では5頭のトラが楽しそうにじゃれ合っていた。

 「この5頭の中にコアとリアがいます。でも、私では、どれがコアかリアかわからない」

通りかかった職員に聞くと、すまなそうに話した。私は吹き出る汗をふきながら何度も何度もシャッターを押した。 

 現在、韓国には30頭近いチョウセントラがいるがそのほとんどが、日帝時代に生け捕りにされてアメリカに輸出されたチョウセントラの子孫を「逆輸入」し、それらを繁殖させたものだということが今回の取材でわかった。南北はチョウセントラの復活を目指し、クローントラの研究まで行なっている。しかしいくら増やしても、トラが棲める環境がなくては何にもならない。そこで増やしたトラを、豊かな自然が残る非武装地帯で放つことも検討しているという。

 帰り際、先の職員が私を見つけてにこやかにいった。

「来年、この辺りに韓半島在来種だけを集めた生態園をオープンさせます。足りないものは、北が贈ってくれるんです」

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