2004年08月06日発行849号

【雇用破壊=民営化進むイラク 占領で石油支配と「自由市場」拡大】

 米英軍によるイラク占領から1年以上が経過し、かいらい政権への"主権移譲"が行なわれた今も、イラク民衆の生活基盤は復旧せず、失業者は増え続けている。それは、米ブッシュ政権のイラク占領の狙いが、イラクの民主化などにあるのではなく、親米政権を通じて石油への支配権を確保することにあったからだ。主権回復と雇用確保を求めるイラク民衆の抵抗運動(レジスタンス)との連帯が求められる。


民営化優先の占領支配

悪化する雇用・民衆生活

 米英軍によるイラク爆撃で破壊された上下水道・電力施設・病院・学校の復旧は、1年以上が経過した今でも遅々として進んでいない。イラクの発電容量は9635メガワットだが、実際の発電量は4400メガワットにとどまっている。

占領軍の撤退を求めるピース・ウォーク(6月26日・東京)
写真:『主権移譲はウソ』との横断幕を掲げて行進する若者たち

 そしてイラク民衆にとって最も深刻なのが、失業問題だ。これまで30%と報じられてきた失業率が実際には70%に達するという調査結果が、バグダッド大学経済学部のメンバーによって明らかにされた。

国営企業をすべて民営化

 こうした異常な高失業の背景には、米英占領当局(CPA)が進めた国営企業の民営化政策がある。

 もともと米英がイラク攻撃とフセイン政権の打倒に固執したのは、(1)イラクの石油を支配することで、世界の石油をコントロールする(2)イラクを"自由市場"化することで、中東全体に"自由市場"を拡大する突破口とする(3)戦争特需に群がる企業に利益を供与すること、を狙ったからだ。

 CPAが昨年9月、「イラクの自由化を進める」として新外国投資法を発表したのもそのためだ。その内容は、(1)約200社ある国営企業をすべて民営化する(2)石油・鉱物関連以外の企業は、外国企業に100%所有権を認める(3)利益は非課税で無制限に海外へ持ち出せる(4)輸入関税を2年間は5%とし、2006年以降は廃止する(5)今後5年間に外国銀行6行の業務を認める、などだった。

 CPAは、新外国投資法以前の昨年7月に早くも、政府系金融機関2行の経営を外国銀行に任せると発表。今年3月には、外国銀行3行(英スタンダード・チャータード銀行、ナショナルバンク・オブ・クウェート、香港上海バンキング・コープ)に営業許可が与えられ、国内金利が自由化された。

公務員も大幅削減

 民営化政策の必然的結果として、各省庁や国営企業の職員(公務員)は大幅に削減された。酒井啓子(アジア経済研究所)が行なった委託調査によると、1977年には約3万人いた石油省の職員が2004年には770人に、鉱工業省では約8万2千人から584人に、というように20万人を超える大幅削減となっている。国営企業についての具体的な数字はないが、ここでも大幅な削減が行なわれたことは間違いない。それに旧イラク軍の解体に伴う軍人の失業が加わる。

 占領当局の政策は、雇用創出やイラク民衆の生活基盤の復旧には向けられなかった。7月4日付の米ワシントン・ポスト紙は、米国は25万人分の雇用創出を約束したのに対し、実際は1万5千人を雇用する予算が執行されただけで、建設や保健医療・衛生設備・水道施設にはまったく使われていない、と報じている。

イラクの資源を略奪

CPAが石油代金着服 

 米国政府・企業による石油の略奪行為も明らかになっている。

 まず、イラク開発基金を管理してきたCPAによる石油輸出代金の着服だ。6月末の"主権移譲"に伴い基金はCPAの手を離れたが、CPAによると石油収入は約108億ドル。これに対し、英国のNGOクリスチャン・エイドは独自の試算に基づいて、「石油収入は130億ドルあるはず、残りの30億ドル(約3300億円)はどこへ行ったのか」と告発している。仮に占領統治費用に流用したとしても、安保理決議1483違反だ。同決議は石油収入の使途を限定しており、占領軍の統治費用に使うことは認めていない。

 また、イラク原油が市場価格の40分の1の安値で米国の石油会社に売却されていたことも明らかになっている。国連や国際通貨基金(IMF)などが運営する国際顧問監視理事会(IAMB)は7月15日、CPA統治下で成立した石油事業をめぐる契約のうち「6件は正当な手続きを経ず、4件は競争入札なしで認可された」と指摘し、不透明な契約を批判した。

小泉の占領参加も利権狙い

 小泉政権がブッシュ政権のイラク戦争・占領に積極的に加担する理由も、イラク石油の再配分や"復興特需"に参入するためだ。経済産業省幹部は「日本政府が復興事業に積極的にかかわるその先には、石油確保への期待感がある」(03年4/8朝日)と打ち明けている。

 すでに昭和シェル石油・コスモ石油などがイラク産原油の輸入を再開し、日本企業9社が日本貿易振興機構(ジェトロ)からの委託を受け、イラク南部の液化石油ガス(LPG)生産施設の修復に向けた事前調査に乗り出した。

 小泉政権は、10月に東京でイラク復興支援会議を開催するなど、日本企業の"復興特需"への参入を国家ぐるみで後押ししようとしている。

暫定政権下でも支配変らず

 米国は"主権移譲"後も、各省庁に計200人にのぼる"顧問団"を配置し、2千人という世界最大の大使館を中心に、イラク暫定政府の政策決定過程に介入し、事実上の占領支配を続けている。

 国営企業を民営化し、イラクをグローバル資本が支配する"自由市場"に変えようという路線は、暫定政権下でも変わらず追求されている。 

批判受け進まぬ民営化

しかし、イラクの民営化は順調に進んではいない。

 それは国営企業の民営化に関しては、暫定統治評議会でも抵抗が強かったからだ。イラク商工会議所のバルダウィ会長も「復興を口実に資源や富を奪おうとしている国がある」(03年12/9日経)と非難。当然ながら労働者も、雇用情勢をさらに悪化させる民営化には反対の声を挙げた。

 こうした批判の声を受けて、CPAも石油部門の民営化については先送りせざるを得なかった。イラク石油省のロバート・マッキー上級顧問も「石油産業をある日突然民営化するわけにはいかない」(1/28)と認めている。

 また製造業でも、国営たばこなど35工場を長期リースする方式に迂回せざるを得なくなっている。

 イラク民衆は、「失業の危機、進行する民営化の余波の脅威、治安悪化と社会不安、人々のきずなを断ちあらゆる種類のテロの土壌となるテロ抗争、停電と電力危機、水の汚染」(イラク失業労働者組合=UUIの6月2日の声明)をもたらし、人々の生命と安全、安定を奪った占領軍の駐留に反対している。

 イラク民衆のレジスタンスへの連帯を強化し、国際的な反占領闘争の力で、イラクをくいものにする占領支配を終結させなければならない。

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