8月9日の関西電力(関電)美浜原子力発電所3号機配管破断事故は、死者5人を含む11人が死傷するという日本の原発史上最悪の事故となった。安全性も労働者の命も踏みにじって運転を続ける原子力発電に未来はない。
コストカットが最優先
破断し口をあけた配管(原子力保安院発表資料)
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破断したのは、美浜原発3号炉の2次系配管。直径56センチの配管は、最大延長57センチにわたってめくれ上がり、もはや「管」の態をなしていない。10ミリあるはずの肉厚が1・4ミリまで減少し、10気圧もの水圧に耐えかねて熱湯を噴出した。2次冷却系は70%もの冷却水を喪失し、その用をなさなくなった。原子炉の停止が間に合わなければ、炉心溶融という最悪の事態にもなりかねなかった事故だ。
問題の配管は、1976年の営業運転開始以来、一度も点検されておらず、点検リストからも漏れていた。それが発覚してからも関電は点検を1年以上も先送りしていた。
東京電力を皮切りに、東北・中部・四国電力などの7原発17基にもおよぶ事故隠し・点検結果捏(ねつ)造が明るみになり世論の批判の的になったのは、02年。それから1年も経たない時期に関電が行った検査先送りの決定には、コスト優先・安全無視の電力会社の体質がありありと表れている。
美浜原発の略図。「A−復水配管破口箇所」から熱湯が吹き出した(原子力保安院発表資料)
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補修のために原発を止めると数億円の出費となる。いまや誰の目にも高コストであることが明らかな原発を抱える電力会社は「発電コストを削減する要は、稼働率の向上だ」と定期検査による原発停止期間の短縮に躍起だ。90年代前半までは3か月かけていた検査を95年以降は40日に短縮している。もともと30年〜40年が寿命とされ、老朽化が進んでいるにもかかわらず。
美浜3号炉の破断事故以降も、配管の老朽化による漏水や配管の検査漏れの事実が次つぎと明るみになっている。全国に52ある原発の内、すでに稼動後25年も経過するものが3分の1にものぼり、大事故の危険性は日に日に増している。
そして「国策」として原発推進に固執する政府は、あろうことか原発の寿命を建設当時の2倍の60年に設定しなおすなど、安全性無視を放置・助長している。
6万人近い被曝労働者
破断した配管は、関電の社内基準では91年にすでに寿命を迎えている。関電はこのことを当然把握していており、事故は予見できた。だが、関電は原発を営業運転しながら200人の作業員を定期検査の準備に従事させていた。その現場で、140度の熱湯800トンが一気に噴き出した。犠牲となった5人は、その熱湯を浴び全身の9割に熱傷を負い気道をただれさせて、苦しみの中で命を落とした。
運転しながらの準備作業の目的は「定期検査期間の短縮」=コストカットだ。
このような、危険な場所で作業させられるのは下請け・孫受けの労働者だ。彼らは、放射線の危険性もろくに教育されず、防護マスクと放射線防護服で全身を包み、放射線線量計の警報を唯一の頼りに、気温が50度を超える劣悪な環境の中で作業に従事する。マスクが曇って作業にならないとマスクを外すことや、線量計の警報が短時間で鳴るので無視して作業を続けるなど、被曝は日常茶飯事だ。そのような人たちは全国で5万8千人余りに上るという(8/12 東京新聞)。
電力会社は彼らの安全など一顧だにしない。事故後、新たに4箇所の配管がリストから漏れていたことについて、関電の豊松秀己・原子力事業本部副事業本部長は記者会見で「安全上全く問題はない」と強調し、根拠を問われると「原子炉の安全上、という意味です」と付け足した(8・11 朝日)。労働者の安全、地域住民の安全は、彼らにとって留意すべき「安全」ではないのだ。
危険きわまりない、そして数万の被曝労働者抜きには成り立たない非人道的なシステムは、決して美浜原発だけではない。すべての原発はただちに運転停止・廃棄すべきだ。