反占領レジスタンスは、生活と権利を取り戻す闘いでもある。占領軍の操り人形・イラク暫定政権が行政サービスの提供を放棄している中で、住民は生活再建の闘いを始めている。キルクークにある連帯地区は住民独自で自治組織・地区評議会を結成した。多様な民族・宗教の違いを前提に、自由・平等の実現に向けた闘いを進めている。
(豊田 護)
サッカーも「連帯」
文具の入った支援物資を手にするアジズ議長
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連帯地区に管理センターができたのは7月29日だった。地区評議会の選挙から2か月間、事務所はなかった。やっと一軒の民家を借りることができた。ここに5人の評議員や地域警備チームなど評議会の活動を支える人々が集まってくる。
ある日若者たちがやってきた。「この地区には若者が楽しめる施設がまったくない」と苦情を申し立てた。早速、請願署名を集めた。市当局の責任でリクレーションセンターかユースセンターを建設させるためだ。市当局からの回答はない。地区評議会は自ら土地をさがし、サッカー場を整備した。この取り組みが地域の団結を確かなものにする大きな成果を生んだ。
「この地域には、3つのサッカーチームがあった。アラブ人・クルド人・トルクメン人がそれぞれチームを作っていた。 われわれが彼らに働きかけた結果、一つのチームにまとまった。チーム名は“連帯”だ」
評議会の活動を支えるジャシムは誇らしげにいった。“クルドだ、アラブだ”といった民族紛争とは無縁な地域をつくり出すことができる。連帯チームは各地の大会に参加し、他の地域に成果をアピールしている。
識字学級の開設
地区評議会に青年委員会ができた。自転車競技やサッカーの選手権大会を実施しスポーツの振興に取り組んでいる。音楽や外国語そしてパソコン教室など計画中のものは多様だ。政治問題を学習するセミナーも好評だ。
連帯地区管理センターにやってきた子どもたち
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地区の人口調査を行った結果わかったことは、多様な民族・宗派の人たちが混在していることだけではなかった。読み書きができない人が8割もいた。学校にも通えない貧しさが蓄積されているようだ。地区の児童数は約2千人。小学校2校、中学校1校しかない。その学校も政権崩壊後、略奪にあっている。
地区評議会は教育委員会や他の団体と協力して、新学期を迎える児童のためにノートや鉛筆などの文房具を集めた。女性問題に取り組む女性自由協会と協力して識字学級も開設している。
「資金さえあれば」
「われわれは市議会や市当局にいろいろ要求してきた。道路をつくれ、舗装せよ、下水道・水道を整備し、電気を供給せよ、地域に公園をつくれ。教育委員会には学校の増設も求めている。何度も会合を持ち訴えてきた。だが、われわれが手にしているのは『約束』だけだ。何も実現していない。われわれに資金さえあれば、自分たちの手で建設できるのに」
地区評議会議長のアジズは残念そうに語った。地区の失業率は90%にも上る。住民から寄付金が寄せられる。だがその額は限られている。地区評議会のスタッフさえほとんどがボランティアだ。アジズ自身何の報酬も得ていない。代償を求める人は誰もいない。
そんな中、失業労働者組合(UUI)を通じて無料で診療が受けられるクーポンを支給している。行政から、道路清掃や給水などの仕事を500人分請負うこともできた。いま協同組合を設立し、自ら仕事づくりを始めている。
アジズ議長は「占領は、イラク人が自らの手で国を再建する上で、大きな障害となっている。暫定政府に参加している政党は、つねにイラク国民が自ら統治し行政をおこなうことを妨げている」と強調する。
キルクーク市はクルド政党の支配力が強まっている。占領軍が意識的に擁護・誘導した結果だ。クルドへの国籍変更を拒絶したアラブ人が降格させられた話も聞いた。政権にすり寄らない者への嫌がらせは後を絶たない。
「占領軍が撤退し、イラク国民が自らの政府を選ぶことができれば、イラク国民は立派に自ら統治することができる。この連帯地区の活動がそれを示している。他の地区にとってもすばらしい実例になるだろう。イラクだけでなく全世界が知ることができるだろう。われわれはそれをつくり出すことができる」。アジズは力を込めていった。 (続く)