ロゴ:カルテの余白のロゴ 2004年09月29日発行856号

『こんな年になっても(下)』

 子宮膀胱脱の手術後、長年の排尿の悩みがすっかり良くなったAさん(82歳)。お友だちのCさん(78歳)を連れてやってきました。

C「おんなじ症状ですねん。Aさんみたいに、手術したら治りますか? そやけど、主人も息子(45歳独身)も、家のことはなんにもしません。家事はぜんぶ人まかせで…」

 ようやく同居の二人の男性の同意をえて、手術が終わりました。術後、はじめての外来受診に来たCさん、表情がさえません。 

C「帰ってみたら、洗濯物とごみの山ですわ。退院した日から、家事に追われてます」

 術後の養生も治療のうちですよ、と事前にしっかり説明しましたが、家事は女がするものと決め込んでいるお二人には、通じなかったようです。3か月後の受診で、すでにすこし再発の兆候があり、案じられます。

 同じ年齢のご夫婦でもさまざまです。Dさんの夫は、Dさんと同じ76歳。同じ病名、同じ手術をされました。術後、初めての外来でのことです。

D「せんせ、人間いくつになってもやる気ですね」 

私「え?」

D「おとうさん、洗濯機つかわれへんから、手で洗濯してますわ。わたしの下着まで洗ってくれます。ご飯も、毎日、魚焼くだけですけど、味噌汁つきますねん。えらいもんやねー」

Dさんの夫「ちゃんと、治ってもらわんと…」

 子どものころからの生い立ちも結婚生活での夫婦関係、また男女観(女性観)がちがうと、こんなにも女性の病気も変わってくる。そのことに、複雑な思いになります。男性の病気が、妻や子どもの影響を受けることはないでしょうから。

 もっと目にみえない男女の関係が推察されることもあります。

 もう何年も、外陰の「痛み」で通われているEさん(65歳)。「ずきずき、痛いんです。ひりひりもします。痛くて痛くて、寝られません」。見た目も、内診上も、異常はありません。

 軟膏をもって帰って少し落ち着かれますが、数週間から数か月でまた来られます。

E「どないかなってません? 痛くて…」

私「痛いのは、本当につらいですね。でも、痛みの原因がこれって、決められないんです。そんな時はあんまり薬を変えてもよくなりませんので、すこし下着をあったかくするようにして、様子をみたほうがいいですよ。前にもこんな痛み、ありました?」

E「亡くなった夫と『夜のこと』やってたときもこんな感じ…」と、表情がぼんやり、止まってしまいました。性生活に良い思い出はないようです。

 女性の体とこころは、人生で生活をともにする男性からおおいに影響を受けるものです。

(筆者は、大阪・阪南中央病院産婦人科医師)

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