UUI事務所に集まった失業者(8月16日・イラク、キルクーク)
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イラクが侵略・占領されてから1年6か月。人びとの暮らしが改善されるきざしはまったくない。それどころか経済制裁下のサダム政権の時より一層悪くなっている。失業率は7割以上に及びさらに深刻さをますばかりだ。イラク北部キルクークの街で失業者の声を聞いた。
(豊田 護)
「わたしたちの国は、世界でもっとも豊かな国の一つであるはずなのに、貧困に苦しんでいる。仕事を見つけられず、服を買う金すらない」
フェイサルさん
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イラク失業労働者組合(UUI)の事務所に20人余りの失業者が集まった。職を失ったフェイサルには交通費を出す余裕がない。キルクーク中心部にあるUUI事務所まで、5キロの道のりを数人の若者とともに歩いてやってきた。彼らの住むところは「6月1日」地区。石油国有化の記念日だという。
「いまわたしたちは、他者によって統治されている。決定権を奪われている。そして資源も運命も奪われてしまった」
石油の街キルクークは、昨年の戦闘後、米占領軍がいち早く軍を配置し石油関連施設の確保に回った。これまで一体どれだけの原油が採掘され、国外に持ち出されたか、正確に知るものはいない。
広がる不平等
「この街には多くの失業者がいる。UUIに登録したが仕事はない。バベルという警備会社がある。この会社は人びとを研修しただけで、採用はしなかった。米軍にも求職登録したが、誰にも仕事は回ってこなかった。事業を請け負う業者は親類以外雇わない。警察に応募するには、ワイロが必要だ。民主主義などどこにもない」
アブアリは不平等を怒った。民族間の対立を煽る行政にも怒りを向けた。
市民を殺すのはテロだと訴えるアヤドさん
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「クルド人には一定の区画の土地が与えられるのに、アラブ人にはない。アラブ人からは銃を取り上げるのに、クルド人には許している。クルド政党は、ただアラブ人だと言うだけで、サダムとは何の関係のない者にも報復しようとしている」
彼の住んでいた地区の近くに米軍が基地をつくった。米軍は「不審者」の大量逮捕をおこなった。アブアリの息子は拘束されて15か月間帰ってこない。
6月1日地区からやってきたアヤドが、話をついだ。
「サダムは独裁者だった。いま一人の独裁者が去り、別の独裁者がやってきた。治安はずっと悪くなった。誘拐事件や自殺爆弾事件が頻発している。それは、米軍に任命された政権が、民族や宗教に基礎をおいているからだ。そんな政権だから分断と無秩序・無規律状態を生み出しているのだ」
日本軍は不必要
この日集まった人びとは、誰一人として暫定政権を信用してはいない。暫定政権は米国製の政府だと断言する。「わたしはアラウィを選んだ覚えはない。市議会だって選んでいない」「イラクで起こっている、生活の悪化も失業も貧困もすべて米国が引きおこしたものだ」。占領軍と暫定政府に対する怒りの言葉がとぎれることなく続いた。
日本の軍隊にも批判の声があがった。「日本の軍隊は誰を助けているのか。答えは簡単だ。米国だ。イラクにいる軍隊はすべて米国を助けるためにいる」「人道援助というのならなぜ武器を持ってくる」「占領が長引けば長引くほど治安の回復も失業の解決も先延ばしされてしまう。日本軍を撤退させてほしい」
「主権移譲」など、人びとの生活に何の変化ももたらさず、不平等と反民主主義が社会を支配する息苦しさをもたらした。
テロを必要とする米軍
テロとレジスタンスについて聞いてみた。あちこちから声があがった。
「米国はイラクの不安定さを維持するために、テロリズムを必要としているのだ。駐留を続けるためだ」「レジスタンスは正当な権利だ。占領された国に暮らす者は、誰でも国を守る権利を持っている」「わたしは米軍が爆発事件を引き起こしているのを見た。米兵の一人が車に黒い箱を投げ入れ、数分後にそれが爆発した」
暴力が支配する空間が広がれば広がるほど、自由と平等、民主主義を求める運動は困難を強いられる。アヤドは言った。
「米兵がやろうが武装勢力がやろうが、市民を殺すのはテロだ。民間人を爆撃したり、パイプラインを爆破したりするのは、レジスタンスではない。レジスタンスとは、例えば失業者が団結して、街頭に出て政府に圧力をかけることだ。わたしたちは占領軍がイラクから出て行くことを求める。アラウィ政権の辞任を求める。そのために労働者階級が団結することが必要だ。団結した労働者階級だけが成し遂げることができる」(続く)