イラク攻撃の理由はすべてがウソであった。大量破壊兵器もアルカイダとの関係もなかった。ブッシュ米大統領が今も繰り返す「イラクの民主化」など全くのウソであった。労働者が民主的に結成した労働組合が、サダム体制下以上の抑圧にあっている。キルクークで北部石油会社の労働者に話を聞いた。(豊田 護)
「体制崩壊後、民主主義が回復し、自由が訪れると思った。何十年間も奪われていた権利が取り戻せると言われた。だがそうではなかった」
北部石油会社労働組合議長のオサマ・サミールは語りはじめた。
経営者の差別と闘う北部石油会社労働組合の組合員
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「昨年8月、労働者の代表を選ぶ選挙を実施した。500人が投票に参加し、26人の役員が選出された。自分たちの労働組合の出発だと思った。だが、経営者は選挙の結果を認めなかった。われわれの組合が声明文を配布するのを妨害した。個人的な脅迫さえしてきた」
イラクの石油産業は国営企業として経営されてきた。南部の都市バスラを中心とした南部石油会社とキルクークを中心とした北部石油会社がある。北部石油会社は総勢9600人を抱える大企業だ。経営者の切り崩しの中でも現場労働者約4千人のうち2千人を組織している。
民営化への動きはあるものの、まだ暫定政府の経営のままだ。占領者は人員削減の圧力をかけているが、暫定政府は踏み切れないでいる。
「選挙後、経営者は新たな人物を雇い入れ『労働者の代表だ』と言ってきた。その男はクルド愛国同盟(PUK)のメンバーだった。なぜこんなことが起こるのか。アラブとクルドの対立を煽り、クルド支配を狙っている。サダムの支持者だと言いがかりをつけられ逮捕者も出た。会社にいる保安警察が襲撃してきたこともあった」
仲間への襲撃事件に抗議してデモを行った。権利侵害と保安警察の追放を訴えた。
民族対立の煽動
会社には別に御用組合がある。組合結成後、石油省から調査員が来た。4人の調査員はすべてPUKのメンバーだった。
「調査団は、われわれの言い分はわずか30分足らずしか聞かないのに、御用組合とは2時間もかけて聞き取りをした。その結果、われわれの組合を認めないと通告してきた。占領者たちは、バース党が行った抑圧・弾圧を呼び戻そうとしている」
今年の1月18日、統治評議会(当時)はイラク労働組合連合(IFTU)を唯一の合法組合とした。それ以外は非合法の宣告をしたも同然だった。IFTU代表者のラシーム・フセイン・アブドゥラは暫定政府アラウィ首相の同調者だ。各職場で御用組合への加入圧力が高まった。”結社の自由”の侵害である。
「設立当時、われわれの組合に加盟していた多くのクルド人労働者は御用組合へと、切り崩された。今は2人の役職組合員が残るだけだ。キルクークでは民族対立が煽られている。クルドの民族主義政党は、サダムのやったアラブ化と同じく、クルド化しようとしている」
「民主的イラクを」
民族的な違いを越える労働者の権利意識をどう高めるか。ILO(国際労働機関)結社の自由委員会への提訴もした。啓蒙パンフもつくった。何よりも経営者・政府に対し労働者の正当な要求を突きつけ、実現することだ。
「夏の暑さや冬の寒さはかなり厳しい。だが職場には冷暖房の設備はない」「油田の真ん中で作業するのに、石油の臭いを防ぐマスクさえ与えられない」「機械が修理中に動き出すなど、労災は毎日起こっている」
イラク失業労働者組合の事務所に集まった労働者は劣悪な労働環境を訴えた。給料も安い。27年間働いているという機械工のオサマは学位ももっているが、月に150ドル。維持管理部門で働くファウジは110ドルだという。給料は一般的には学歴と年功によって決まる。だが現実は、差別的な取り扱いを受けている。サダム体制下では経営者側もルールを守った。だが、占領下にあっては、経営者を縛るものはない。
いま組合では次のような要求書を掲げている。時間短縮・週5日制の確立、有給休暇制度の充実、最低賃金月250ドル、超勤手当の引き上げ、安全基準を守れ、危険手当を出せ。こうした労働条件とともに、住宅を全従業員に提供することや社員食堂の設置など、働くための環境改善を一つ一つ積み上げている。経営者が何をサボタージュしているのか、要求を見ればよくわかる。
オサマ議長は最後に力を込めて繰り返し言った。「民主的イラクを」 (続く)