占領が続くイラクでは、サダム体制下以上に労働者の権利が抑圧されている。昨年12月、イラク全土から集まった労働者や労働組合の代表はイラク労働者評議会労働組合協議会(FWCUI)を結成した。いま新たな労働法の制定にむけた闘いを進めている。FWCUIが組織するバグダッドの職場を訪ねた。
(豊田 護)
バグダッド中心部、アダミヤ地区の近くに職場はあった。電気の配電設備・配電工事を行う事業所だという。配電所への出入り口には遮断機が設置され、ガード役の労働者が張り付いていた。遮断機のバーが上がりトラックや作業車が出入りしている。周辺は縫製工場などの工場群だ。
FWCUI議長ファラウ・アラワンが配電所の労働者に連絡を取りに行った。入り口横の守衛室に労働者数人が集まっていた。インタビューがはじまった。
経営側が取材妨害
「賃金は通常給に収益に応じた能率給が加算されるのがこれまでのやり方だった。ところが2年前から、能率給が停止されたままだ。収益を分配せよと要求をしている」
いきなり、経営者に対する不満・要求が口をついで出た。「バース党の幹部が今も経営権を握っている。われわれの能力は過小評価されている」と話す表情に怒りが浮かぶ。
経営者側の男たち2、3人が守衛室に入ってきた。
「報道関係者は入れない。撮影はするな。早く出て行け」労働者側と激しい口論がかわされるが、結局、敷地の外に追いやられた。それでも、入り口から20〜30メートル離れたところで、労働者の話が続いた。
「30年以上ここで働いているんだ。資格証明書や学位もあるのに、月に150ドルだ。まったくなんの評価もされてない。正当にあつかえと要求すれば、解雇するぞと脅してくる」「暖房や冷房の設備なんてない。厳しい労働環境の中で危険手当さえ支給されてない」
名前や年齢など問い返す間も与えないほどの勢いだ。それを遮るように、追いかけてきた経営者側は退去せよと執拗に迫ってくる。
配電所の門前で賃金差別を訴えるマジンさん(8月21日・バグダッド)
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「これを見てくれ。37年働いているのに、月200ドルだ。暫定政府の政党に入れば400ドルにあげてやるとさ。馬鹿にしてるじゃないか。苦情を申し立てると、即、減給されてしまう」
身分証明書なのだろうか。示されたカードは、スーパー・アドバイザーと読める。名前はマジン・サキン。
これ以上立ち止まっていると危険だ。経営者側の妨害行為が激しくなった。何が起こるかわからない。車に乗り込み、その場を離れた。50メートルも走っただろうか。米軍の武装車ハンビー2台とすれ違った。ハンビーが配電所の前に止まったのがリア・ウィンドゥ越しに見えた。偶然なのか。経営者側が通報したのか。門前でのやりとりを続けていれば、どうなっていたか。緊張感を覚えた。
国際連帯に期待
「昨年皮革工場で行ったデモでは警察の妨害にあった。工場では、文化活動を名目に宗教的なクラブがつくられた。それは、宗教教義を押しつけることで労働組合の組織化を妨害してきた」
アラワン議長はイラクにおける労働組合の状況について語った。
「サダム体制下では、労働組合は政権の一部であった。組合はむしろ労働者を統治する役割を担っていた。それは占領後も変わらない。今年1月28日、当時の暫定統治評議会は、労働者の声を聞くことなく、選挙もされていないイラク労働組合協議会(IFTU)を公認した。われわれの組合活動を妨害するためだ」
労働者の要求は経営者の許容範囲に押し込められてきた。長い独裁体制が続き、当局の顔色を見ることが伝統となって労働者の頭の中にしみこんでいるという。
労働者の組織化を進めるアルワンさん(右から2人目)
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「われわれは労働者の権利を保障する新しい労働法を提案している。多くの職場で歓迎されている。もし、われわれの闘いが勝利すれば、古い伝統を払拭できる。歴史的な転換点となるだろう」
FWCUIはイラク全土にわたって約30万人の労働者を組織している。11月25日には南部イラク労働者会議が開催される。南部石油会社労働組合をはじめ港湾・建設労働者など様々な部門から参加するという。イラク南部は、特に宗教勢力の影響が強い。ここでFWCUIの組織化が前進する意味は大きい。
「35年以上の間、望んでいなかった分断が終わって、イラクの労働者の闘いを世界中の仲間に再び統合することとなる」と会議への呼びかけ文は結んでいる。イラクの労働者は国際連帯の力を期待している。
(続く)