グローバル企業は各国の国営郵便局を解体・再編し、その資産と郵便・物流システムを飲み込もうとしている。日本も含む189か国が加盟する万国郵便条約で「すべての地点で恒久的に合理的な価格」と義務付けられてきたユニバーサル(全国一律)サービスを解体し、グローバル物流企業にその市場を提供しようとしているのだ。
03年4月の公社移行時、信書郵便の自由化が行われたが新規参入企業はゼロ。これは、遠隔地や離島などにも全国一律のサービスを提供するために、法律で「全国10万本のポスト設置」を義務付けたからだ。利益の出る都市部だけを市場とする民間企業には、公共性を優先するユニバーサルサービスはできないのである。
郵便局が民営化された国々では国民生活破壊と労働者の首切りが進行している。
95年に民営化したドイツでは、採算の合わない過疎地の郵便局を統廃合し、2万9千局から1万3千局に、職員数も39万人から27万人に削減した。民営化後の「ドイツポスト」は他国の物流会社を買収し、グローバル物流企業として再編され、公共性は完全に解体された。
87年に民営化したニュージーランドでは、郵便料金が「地域別」になり、個人金融資産は外資系銀行に吸収、手数料値上げや局舎の統廃合が進行した。だが、問題の噴出に民営化の見直しを求める声が高まっているのが実態だ。
日本では、民営化と同時に、企業優先の郵便料金自由化や「貯金口座維持手数料」の新設、過疎地での局舎統廃合を進めようとしている。現在、過疎地の金融機関の74%は郵便局が占める。全国2万4800の国営郵便局の統廃合によるユニバーサルサービスの解体は、過疎地の住民や小口資産の年金生活者・低所得者などの生活を直撃する。
民営化先取りする公社
民営化を急ぐ小泉内閣に後押しされ、郵政公社では、民営化の先取りであるリストラ合理化が行われている。
職員の4割を非正規労働者に置き替える人員削減をはじめ、給与・人事には能力給・査定制度を導入し、12万人のアルバイト職員にまで能力給を導入するなど、民営化を口実に合理化・労働強化は日常化している。仕事が深夜に集中する郵便部門では93年以降10年間で100人が現職死亡。04年新たに導入された「仮眠なしで10時間労働を週4日連続する深夜勤務」により3名が死亡するなど、「過労死」も急増している。
郵政最大の労働組合JPU(旧全逓)は、「民営化反対」を口にしつつも「現行の経営形態のままでも事業構造を改善すれば、民営化以上の効果が出る」と、公社当局と一体となってリストラ合理化を推進している。
民営化基本方針にある「非公務員化」が強行されれば、国家公務員を組織ごと民間企業の社員に切り替える初めての試みになる。他の公共施設で働く労働者にも適用され、公務員総リストラの新たな手法となることは必至だ。
思惑通りには進まない
小泉内閣が郵政民営化基本方針を閣議決定して以降、「全国で22都道府県議会、市区町村議会の半数を超える1598議会から、民営化に反対する意見書が採択」(10/10朝日)された。とりわけ過疎地域での郵便局の統廃合に反対する声は強い。すでに民営化されたJR・NTTなどの不採算・過疎地域からの撤退で国民生活が破壊されてきているからだ。
現在、自民党ですら「民営化するかどうかを含めて党は決めていない」(村井仁郵政事業改革特命委員会委員長)として賛否を保留するなど、小泉内閣の思惑通りには進んでいない。
グローバル企業の利益のために公共性を解体し、国民生活破壊と郵政労働者のリストラ合理化をすすめる郵政民営化の正体が明らかになるにつれ、いっそう反対の声は広がるに違いない。