1993年から現在に至るまで「女性世界法廷」という運動が展開されてきた。
当初は女性NGOの「アジア女性人権評議会(AWHRC)」単独主催であったが、後にNGOの「エル・タラー・インターナショナル」も加わった。
AWHRCは、インド、タイ、フィリピンに拠点を置くアジアの女性人権NGOである。現在の事務局はインドのコリーヌ・クマール教授(社会学)が担っている。AWHRCは日本軍性奴隷制問題にも取り組んできたので、国連人権委員会や人権促進保護小委員会(人権小委員会)でも、何度もNGOとして「慰安婦」問題の解決を求める発言をしている。
エル・タラー・インターナショナルは、チュニス(チュニジア)を拠点とする女性人権NGOだが、最近、やはりクマール教授が事務局を引き受けている。
AWHRCとエル・タラー・インターナショナルが協力することによって、アジア、アラブ、アフリカの女性たちのつながりができて、女性世界法廷が世界的な広がりで実現するようになっている。
これまでに開かれた女性世界法廷は次の通りである。
女性に対する暴力世界法廷(1993年、ラホール、パキスタン)
女性売買と女性に対する戦争犯罪法廷(1994年、東京)
ダリット女性に対する犯罪女性法廷(1994年、バンガロール、インド)
再生産テクノロジーに関する女性法廷(1994年、カイロ、エジプト)
開発暴力に関する女性に対する犯罪女性法廷(1995年、ヴィモチャナ、インド)
人身売買・ツーリズム女性法廷(1995年、カトマンド、ネパール)
アラブ世界女性法廷(1995年、ベイルート、レバノン)
暴力反対女性法廷(1995年、北京、中国)
アフリカ女性法廷(1999年、ナイロビ、ケニア)
先住民族女性・土地権女性太平洋法廷(1999年、アオテアロア、ニュージーランド)
経済封鎖女性国際法廷(1999年、ハバナ、キューバ)
戦争反対平和を求める女性法廷(2001年、ケープタウン、南アフリカ)
人種主義反対女性法廷(2001年、ダーバン、南アフリカ)
難民・先住民族女性法廷(2001年、シドニー、オーストラリア)
人身売買暴力・HIV南アジア女性法廷(2003年、ダッカ、バングラデシュ)
アメリカの戦争犯罪に関する女性法廷(2004年、ムンバイ、インド)
女性世界法廷は、時によりそのテーマを変えてきたが、戦争・人身売買・先住民などの関連での女性に対する差別や、人種差別と複合した女性差別を取り上げている。現代世界で喫緊の課題のひとつであるアジア、アラブ、アフリカの女性の現状を訴え、問題解決を図るための運動である。
女性世界法廷は「記憶にとどめること」を第一の課題に掲げて、被害者の証言、目撃者の証言、人権活動家や研究者の報告を中心に構成している。声を奪われてきた女性、声を聞き取られてこなかった多くの女性たちの声を法廷に集約することが第一である。
また、癒しにも焦点を当てている。被害を受けた女性はもとより、間接被害を受けた女性、女性の人権擁護に力を注いだすべての人々に癒しをもたらすことである。そのため、証言に加えて、音楽や舞踊などの文化企画にも力を入れている。ビデオ、詩の朗読、歌やラップも織り込んで工夫している。