第18回海勢頭豊&「月桃の花」歌舞団公演が11月24日東京、11月26日大阪で行われた。「ちるぐゎーと魔法のランプ−イラク、誇りを歌う」と題した舞台は、非武装で占領と闘うイラク民衆の誇り高い姿を伝えていた。記者の取材した市民レジスタンスの取り組みがベースになった。占領と闘うイラク民衆。占領国日本で何をすべきか、改め考えさせられる公演だった。 (豊田 護)
沖縄女性がイラクに
『きぼうのうた』の大合唱(11月26日・大阪)
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沖縄の女性ちるぐゎー(千鶴の愛称)が、ランプの魔法で、イラクの青年オマールと入れ替わる。ちるぐゎーはイラクを、オマールは沖縄を体験する。
イラクでちるぐゎーは、オマールの知り合いの女性が米兵に暴行を受け家に逃げ込んでくる場面に出くわす。彼女の自宅に帰れば、「部族の名誉」を守るため身内から殺されるおそれがあるからだという。そんなところへ米兵が「テロリスト」掃討のためと急襲。有無を言わさずちるぐゎーらを拘束し、収容所に連行する。占領の実態を目の当たりにし、とまどうちるぐゎー。
一方、オマールが見た沖縄は、イラクに占領軍を送り出す基地の街。米軍ヘリが墜落しても抗議しない政府、怒らない国民。イラク同様米軍が占領し、民衆の意志など無視される姿だった。「生まれてくる子どもに平和を教えるために、世界で一番平和な国日本に来た」と語るオマール。 イラン・イラク戦争以来ずっと戦争の時代を過ごしたイラク人にとっても、日本の平和は見せかけだった。
『占領を笑う歌』
「ジュゴンの海を守ろう」と海勢頭さん(11月24日・東京)
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印象に残った場面がある。オマールが入れられた収容所で、囚われた人びとが「俺たちの心は囚われない!俺たちの心はいつも自由だ!」と『占領を笑う歌』を歌う場面だ。占領者と暫定政府に連なる者たちの権益に固執する”不自由さ”を笑い飛ばす。イラクは俺たちがつくった国だと労働者の誇りを象徴的に表現する設定となっている。
実際の収容所における恐怖・虐待はいかばかりか。電気ショックや性的虐待。わたしたちはアブグレイブ収容所におけるほんの一部の事実を知るのみである。収容所はその他10数か所も存在する。いたるところで残忍な行為が繰り返されていることだろう。舞台のように”笑い飛ばす”場面など現実離れに違いない。
だが、アブグレイブ収容所の中でも、待遇改善を要求して座り込みの闘いが起こった。『占領を笑う歌』は、全くのフィクションではないのかもしれない。
8月の取材の時、イラクを自由・平等な社会に再建しようと闘う市民レジスタンスのメンバーから「厳しい現実の中でも、なぜわれわれが冗談を言って笑っていられるか、不思議に思わないか」と聞かれたことがある。「必ず希望は実現すると確信しているからさ」。彼らは満足そうに、そう言った。
毎日100件を超える戦闘が、全国主要な都市で引き起こされている。まきぞえになる市民の数は計り知れない。「なぜ米軍もテロリストもわれわれ市民を殺すんだ」と自宅にロケット弾を撃ち込まれた住民の声が伝えられていた。市民レジスタンスは、多くの民衆に勇気と希望を与える。そのことが実感できる場面だった。
自衛隊撤退の力に
記者がイラク現地の報告をする時、「もし日本がイラクだったら」と問いかけている。日本に置き換えればどれだけの犠牲者になるのか。一人一人の犠牲者の生活を想像してほしいと訴えている。イラクのことを自分に引き寄せて考えてもらうために必要なことだからだ。
今回の舞台の仕掛けは、同じような効果を狙っている。
イラク青年と日本の女性が入れ替わる。つまり占領国と被占領国の立場を入れ替える。ちるぐゎーを通して、侵略される側に立つことを求める。撃たれる側に立ってはじめて、恐怖を実感できる。わが身が拘束され、知人が虐待を受けることに腹の底から怒りが湧き上がる。犠牲者は当人だけに限らない。それにつながる人びとがいること、その一人一人に生活があることに思いを馳せることが必要だ。
市民レジスタンスに未来への希望をみつけたちるぐゎー。オマールは「占領地」沖縄で新基地建設反対の座り込みを続ける辺野古のおじい・おばあの闘いに平和を築く力を感じていく。
舞台に感動した観客は多い。占領国日本でしなければならないこと、自衛隊撤退への力につながってくれれば、この公演は大成功だ。 (続く)