2004年12月15日発行867号
ロゴ:反占領、自由・平等をめざして

【第13回 バグダッドのホームレス / 生活再建は自らの手で】

 「戦争をするのではない。あくまで復興支援」。イラク占領軍の一員としての自衛隊駐留に固執する小泉首相の言い訳である。だが、イラク民衆は虐殺を続ける占領軍の脅威と闘いながら、自らの手で地域と生活を再建しようと奮闘している。バグダッドでは自宅を追われた「ホームレス」の人々が住み着いた地区でも、市民レジスタンスの組織が進んでいた。(豊田 護)

悪化する労働事情

 バグダッド国際空港。市内中心部から南西に約15キロのところにある。イラクを侵略した米軍が真っ先に制圧した施設の一つだ。

 以来、市民を拘束し収容するテント群ができた。攻撃ヘリの発進基地であり、兵員・武器など軍事物資の補給基地でもある。航空自衛隊のC130輸送機もクウェートから物資を運んでいる。

 この空港とは道1本隔てて、かつてイラク軍兵士の宿舎として利用されていた団地があった。アル・ジハード地区。階級の違いだろうか、仕様の異なる4つの住宅団地がそれぞれ塀に囲まれていた。イラク軍兵士は逃げ出したが、いま650世帯の住人がいる。すべて自宅を追い出された「ホームレス」だという。

 「占領後、地主が次々と家賃を引き上げてくる。とても住み続けることはできない」地区の世話役をしているサミー・ハムディは「ホームレス」の背景を説明した。1957年の人口調査以後、バグダッドに来た人は自分の家が持てなかったから、賃貸住宅に入るしかなかった。現金収入を絶たれた人が家賃を払えなくなるのは、当然の帰結だ。

 占領下での労働事情はいっこうに改善されないどころか、民衆にとってはいっそう厳しさを増している。

支援の物資を受けとる人々
写真:支援物資が手渡されていく

 「道路清掃の仕事をしていたのはほんの1週間さ。次の週に行ったら、別の人間が働いていたね」と住人の一人サファーが言った。この地区に何度も支援物資を届けているイラク失業労働者組合(UUI)のカシームは「1週間働いて、2週間休みの繰り返し。失業の分配に過ぎない」と暫定政府の場当たり的な雇用対策を批判する。

 空港で働いていたサミールはエジプトの労働者を働かせるからと解雇された。治安上重要なところからイラク人を排除するのが占領軍のやり方だ。空港にはエジプト系の会社がはいっている。極端に賃金を下げられたり、安全上の理由で追い払われたりした人が他にもいた。

 請負業者はほとんどが米国から発注を受けている。建設関係の会社にいたガフォーリは「契約上の賃金は1日約7ドルだが実際は4ドルしか払われない。汚職が蔓延し、ピンハネは当たり前になっている」と占領軍と請負企業の腐敗の実態を語る。

治安の確保が願い

 職がない上に、この地区に住み続けることの困難さをサミーは語った。

 「同じような状況にある住宅団地の多くが米軍からの追い出しにあっている。住民が殺されたところもある。深夜米軍が侵入してきて破壊していった」

 いろんな事情で自宅を追い出された人びとが向かう先は、侵略軍に破壊されたり、占領後略奪にあった政府関係施設だった。空軍将校のクラブハウスや国防省で多くの「ホームレス」に出会ったことがある。不法占拠かもしれない。しかし、住民の生活を何の正当性もなく奪っていった占領軍とかいらい政権が追い立てることなどできる道理がない。

 「政権に参加する諸政党は国の施設を勝手に接収している。既に25ほどの施設が占拠されている。だが出て行けとは言わない。貧しい人や対抗する力のない人びとに対してだけ追い出しにかかるとは許せない」

 自らの利益を優先するかいらい政権とそれに取り入る諸政党。イラク民衆は最低の生活水準以下の生活を続けている。「国外亡命者たちは、政党を作り占領軍にスリ寄っている。広大な土地を占拠し、自分の土地だと言ってはばからない。イスラム政党も同じようなことをしている」。

米兵に狙撃された少年(バグダッド、アル・ジハード地区)
写真:ベッドの上に仰向けに横たわる

 占領者たちへの怒りを隠さないサミーだが、自分の地域は自分たちの手でと取り組みを始めた。住民の最大の願いは治安の確保だ。安心して暮らせる保証が欲しい。特に、空港に隣接するこの地区は、戦闘行為に巻き込まれやすい。これまで空港には武装勢力の迫撃砲が何度も撃ち込まれた。米軍からの銃撃もあった。

 5月30日、衛星テレビ用アンテナを立てようと屋根に上がったフシーン・ハミッド(14)が空港を警備する米兵に撃たれた。狙撃兵にとっては、わずか百数十メートル先。少年の姿は照準器の中にはっきり捕らえられていたはずだ。右胸を撃ち抜かれた少年は全身不随でベッドに寝ていた。

 この地区に戦闘を持ち込ませない。住民が動き始めた。        (続く)

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