ロゴ:カルテの余白のロゴ 2004年12月22日発行868号

『不妊治療 (上)』

 「不妊・挙児(妊娠)希望」は、産婦人科受診理由のかなりのパーセントをしめています。教科書的には避妊をしない性行為をもつ関係が1年間あると、90%のカップルが妊娠にいたることになっています。一般的には、1〜3年たって妊娠にいたらないと受診にこられることが多いのです。

 この不妊は、深刻な事情であることも多く、診療には、慎重さと多くの配慮が要請されます。と同時に、「?」と、とまどう場面も多くあります。

 結婚後3年、ふたりともいたって健康に自信があるという夫婦が受診されました。

A「今すぐにでも、双子でもいいから一刻も早くほしいんです」

 今まで、これといった病気にもかかっていないし、すぐに妊娠できると思っていたようです(実際は、特別な病気がなくても原因不明の不妊が圧倒的に多い)。3年といっても、夫が単身赴任の期間が1年近くあったようですし、数か月は避妊期間もあったので本当に不妊かどうか疑問のあるところでした。

私「まず、不妊に関係する問題が何かあるか、初歩的な検査からはじめましょうか」。気持ちの上でのあせりがかえってストレス性の原因にならないようにと気遣って、お話をしました。基礎体温を記録することや二人の生活の調整(夫は不規則な生活)、卵管通過性の検査、精液検査などを勧めました。

A「妊娠できますよね? 今年中には…」と不安げです。

 次の生理のあとで卵管通過性の検査をする予定にしていましたが、そのまま受診されなくなりました。

 半年近く後、そのAさんが妊娠して受診されました。

A「すぐできるって有名なS病院(何と受診に新幹線で行く遠方です)にかかったんです。原因ははっきりしないけど、排卵誘発をして体外受精したらチャンスが増えるといわれて。治療の3回目に妊娠しました。お産はこちらでお願いしたいです」

 診察すると、妊娠2か月にはいったばかりですが、胎芽の発育は順調のようです。卵巣が排卵刺激の影響か、かなり腫れているのが心配でした。

 妊娠の初診から数日後、おなかに圧迫感を訴え救急受診されました。卵巣は通常の何倍にも腫れ、腹水が相当たまっています。すこし胸苦しさもあり、胸水もあるかもしれません。典型的な卵巣過剰刺激症候群です。入院のうえ慎重に経過をみましたが、幸いたいした治療もせずに軽快しました。

 双子の妊娠で、Aさんはとても満足そうですが、重症化すると生命にもかかわりかねない合併症を起こしてまでこの治療は必要だったのかと疑問がのこります。妊娠したい希望にこたえるというのは、こういうことではないと思うのですが。

(産婦人科医・北田衣代)

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