自衛隊のイラク駐留延長が決定された。小泉首相は戦争犯罪をさらに重ねるつもりだ。本来、権力の暴走にブレーキをかけるべきマスコミは、政府決定を後押しした。とりわけ延長反対の声を封じ込め、「自衛隊歓迎」の虚構を振りまいた朝日新聞の悪質さは際だっている。(豊田 護)
「サマワ住民ら自衛隊駐留支持84%」−11月26日付の朝日新聞の記事だ。同月19日〜22日にかけ、自衛隊駐留地サマワのあるムサンナ県で地元紙と共同で世論調査をした結果だという。
自衛隊駐留延長の理由を説明できず立ち往生する小泉首相に絶好の助け船となった。小泉首相だけでなく政府・与党は口を開けば、この調査結果を使う。自衛隊駐留延長の最大の根拠を提供したわけだ。
街頭インタビューに立ち止まる人々(04年1月・サマワ)
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だが、記者が今年1月、サマワを取材した時も自衛隊は歓迎などされていなかった。最近では、自衛隊即時撤退を掲げたデモが繰り返えされている。『朝日』の見出しに全くの”ずれ”を感じた。
調査対象は誰か
この調査は、現地調査員15人が戸別訪問して1000人強の人びとから回答を得たものだという。
調査員1人あたり一日50軒程度は訪問せねばならない。議論好きのイラク人が、1対1でおとなしく設問に答えるとは想像しがたい。必ず近所からも人が集まり、聞かれてもいない人物が横から言葉を挟んでくる。自分の意見と異なる話がでれば、誰も黙ってはいない。
たとえば「前政権の崩壊前と比べ生活はよくなったか」との問いがなされている。59%の人が「よくなった」と答えたという。
記者の現地取材で「生活はよくなった」と言った人は、現政権に取り入っている人たちに限られていた。「サダムの時よりすべてが悪くなった」というのが、街の声だ。もし「よくなった」と答える者がいたら、あたりは騒然となり、「どこがよくなったか」と詰問がはじまるだろう。
さらに、「アラウィ首相を支持するか」との問いには、「支持83%」だという。記者が8月に取材した時、米かいらい政権を支持する者など一人もいなかった。しかも、アラウィの「了承」の下でファルージャ虐殺が繰り返されていることを考えれば、異常な数字といわざるを得ない。
支持を表明したほうが得だと思わせる状況があったか、あるいは、実際に利益を得ている者を対象とした調査だと理解するしかない。
サマワ取材のとき「日本の軍隊が来るのはわかったが、それで日本の企業はいつ来るのだ」と矢継ぎ早に聞かれた。「半年待ってやる。自衛隊が来ても職がなければ、他の外国軍と一緒に追い出してやる」と銃を持った男たちがすごんだのを覚えている。
失業率は依然として高い。「自衛隊が住民の利益になっているか」との問いにイエスと答えた人びとが「76%」とするならば、それは働く機会が欲しいと言っているに過ぎない。職への期待を「駐留支持」として表したことは、一方で「自衛隊に不満あり」とする人が40%もいることからもわかる。
不当な占領を後押し
『朝日』はサマワでの調査結果を載せた次の日、今度は日本国内で「駐留延長の賛否」を問う電話調査を行った。「現地が歓迎ならやむを得ない」といった反応を期待したのかも知れないが、結果は他のメディアの調査と同じく、6割強が延長反対と出た。国民は明らかに撤退を求めている。
『朝日』はこの「駐留反対6割」を隠した。「仮に派遣が延長された場合、撤退の時期を決めるべきかどうか」との設問を用意し、見出しには「撤退の時期を示せ67%」を採用した。あたかも派遣延長が既定のことであるかのようにすり替えてしまったのだ。
調査結果の何に注目するかは、編集方針にかかわる。二つの世論調査の扱いを並べてみれば、『朝日』が、「現地歓迎」を意図的に演出し、自衛隊撤退の国内世論を葬りさろうとしたことは明白である。
いまサマワには、日本の報道関係者は誰一人としていない。『朝日』にしても、イラクの記事はカイロ支局が書いている。欧米の報道記事を利用し、現地アシスタントからの電話取材をもとに、”想像して”記事を仕立てている。
あたかも現地の人々の声を伝えているかのような装いをこらした「サマワ世論調査」に、怒りを覚える。
自衛隊が復興したという学校は誰が破壊したのか。紛れもなく米英軍のミサイルだ。「復興支援」などまやかしに過ぎない。戦争犯罪を覆い隠すさらなる犯罪行為だ。一から十まで戦争犯罪である自衛隊派兵を後押しした朝日新聞もまた共犯だ。
「われわれは物乞いではない」。マスコミが伝えないそんなイラク民衆の一言一言をもう一度、広く伝えたいと思う。