ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2004年12月29日発行869号

第59回『女性世界法廷(3)』

 女性の人権アジア法廷公聴会は、1994年3月13日をジャパン・デーとして位置づけた。

 基調報告を担当した松井やよりは、「私たち日本の女性にとっては、人身売買と従軍『慰安婦』と基地買春という三つの問題について、それぞれ別個に活動とか運動が行なわれてきたと思うんです。もちろん、ダブってやってらっしゃる方もあるんですけれども。しかしこの三つの問題が、共通の女性に対する暴力、女性の人権侵害であるということを、はっきり私たちのなかで理論的に納得するかたちで捉えていきたい」と問題意識を表明している。人身売買についてはタイ女性の人身売買・強制売春にからむ下館事件の経過が報告された。次に「慰安婦」問題について、当時提起されていた5つの裁判が紹介された。さらに沖縄の基地売買春問題が報告された。その上でそれぞれの分科会に別れて、報告と討論が行なわれている。

 1994年3月14日、「東京宣言」を採択して女性の人権アジア法廷は閉会した。

 東京宣言は、「語られなかった戦争犯罪−沈黙を破った元慰安婦たち」として、第二次大戦という暴力が歴史や記憶に刻まれてきたにもかかわらず、残されてきた「大きな沈黙」として「慰安婦」問題を捉え、半世紀の沈黙を破る証言の重要性を指摘し、真相解明、被害者への謝罪と補償を要求している。

 「隠された戦争犯罪−軍隊による性奴隷制」では、軍拡政策や経済開発優先主義により文化も自然も破壊され、女性の尊厳が奪われていることを取り上げ、フィリピン、韓国、沖縄などアジア地域で最大の人権侵害者であるアメリカを告発している。

 「女性に対する戦争−人身売買」では、アジアの国境を越えて広がる人身売買を取り上げ、宗教的習慣、経済発展、娯楽産業などにおいて女性の体の商品化が正当化されていることを批判している。「これら戦争犯罪と女性の性的奴隷制の犯罪は、忘れられ、沈黙のなかにある。これらの話しを語りだすことによって女性たちは社会の歴史を書き変えつつある。戦争中の女性に対する犯罪の話ばかりではなく、政治的武器としての戦争、戦争それ自身の暴力の話である」。

 女性の人権アジア法廷は、証言集会であり、詩の朗読やキャンドル・マーチなど文化運動でもあり、男性による男性のための歴史への挑戦であり、現代日本とアジアの現実を解明する試みである。

 女性の人権アジア法廷には、陪審員が立会い、コメントを加えた。検事や判事は選出されず、起訴状も判決もない。特定の被告人がいるわけでもない。「判決」という名ではないが、「東京宣言」を採択して、現代世界における女性に対する戦争と暴力を糾弾する初期の試みである。1993年の女性に対する暴力撤廃宣言の直後に日本でこうした法廷が実現したことは高く評価されるべきであろう。

 東京宣言は次のように締めくくられている。

だから、

私たちは語る勇気をもったすべての女性を祝福する

ひとりひとりが−奇跡の生存者である

すべての証言が−真実の勝利である

すべての真実は、話すことのできない犯罪に対する非難である

それは、戦時における女性に対する犯罪である

平和時における女性に対する戦争という犯罪である

そして語る時に、私たちは名指しで非難する

私たちは抵抗する

私たちは生まれ変わる

見よ、アジアの異なる文化から来る私たちを

見よ、知識と智恵を輝かせる私たちを

見よ、自分自身を癒し、再生する私たちを

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