2004年12月29日発行869号
ロゴ:反占領、自由・平等をめざして

【第14回 居住権を得たホームレス / 戦闘には協力しない地域づくりへ】

 イラクでは1月の国民議会選挙をボイコットする動きが広がっている。軍事占領下で、人びとの意志が自由に表明できるわけがないからだ。占領軍による虐殺は激しさを増している。武装勢力による反撃も市民を巻きぞえにし、犠牲者を増やしている。イラク民衆の願いは”治安の回復”。安全と安心を自らの手で確保しようと取り組みを始めた地域があった。(豊田 護)


武装勢力を排除

地区のまとめ役サミーとその子
写真:目のパッチリとした女の子をひざに抱くサミーさん

 バグダッド南西部郊外。国際空港に隣接して、住宅団地が広がっている。アル・ジハード地区。異教徒の侵略と闘う”聖戦”と命名された地区には、イラク軍兵士のための宿舎群が連なっていた。いま兵士の姿はなく、「ホームレス」の人びとが住みついている。

 「マハディ軍の兵士が4人やってきた。『すべての店を閉めろ。ここを戦場にかえる』と一方的に通告してきた。空港に近いこの地区を手に入れようとしたのだろう。それまでにも何度も家にやってきている」

 地区でまとめ役をしているサミー・ハムディはいった。イスラム教シーア派の急進的勢力であるサドル・グループの民兵組織マハディ軍。武装勢力といわれる一つだ。その兵士が脅迫に来たというのに、

サミーはどこかうれしそうに話をつないだ。

 「住民はまとまって、そいつらを追い返した。バンバンとこっちから銃を撃ってやったよ。もう二度とやってこないね」

 銃を模した手の指が空を向いている。いたずらっぽく笑う顔が誇らしげでもある。

 アル・ジハード地区は、国際空港に隣接しているために、武装勢力にとっては格好の拠点である。空港に陣取る米軍を狙うには最適だ。居住区に紛れ込むこともできる。実際、対米攻撃に使われていたこともあるという。

 今となっては、住民が占領軍と武装勢力との戦闘に巻き込まれる危険性が高い。

 地区に住む14歳の少年が米兵に狙撃されたことがあった。屋根に衛星テレビ用アンテナを立てに上がったところを狙われた。”安全に、安心して暮らしたい”という当たり前の願いをかなえるには、武装勢力の進入も防がなければならない。

占領軍もノー

自らの手で治安を確保するアル・ジハード地区の人々
写真:会合であつまった地元の人々

 「わたしたちは、住宅団地の中に独自で検問所をつくり、巡回班もつくった。4つの団地群があるが、全体で42人のメンバーが四六時中自主的に警備に当たっている。地域の警察とも協力しあっている」

 地域の安全を自分たちの手で、との思いが自主警備チームを組織させた。武装勢力を入れないだけでは、安全は保証されない。地域のメンバーは米占領軍・イラク暫定統治評議会(当時)とも交渉を持った。

 「相手は、米軍の司令官。幹部クラスのメンバーが交渉に出てきた。個人ではまったく相手にされないが、地区の代表として申し入れた」

 この地区にも、イラク失業者労働組合(UUI)や女性自由協会(OWFI)など非武装で占領と闘う市民レジスタンス戦線のメンバーが支援に入っている。交渉の実現に力を発揮した。

 「この地区は、住民自身で治安を確保するから、手を出すな、攻撃はしないようにと米軍に申し入れた。あわせて、護身用の武器や警察用バッジ・防弾チョッキ・無線機を提供してほしいと要望書をだした」

攻撃の口実を絶つ

 占領軍に攻撃をさせないためには、武装勢力を排除した自治組織があることを示すことが有効だ。地域をあげて占領軍と交渉することで、無差別攻撃を回避する可能性は広がる。”戦闘には協力しない”と宣言することが地域を守ることになるはずだ。

 他の地区では、米軍が侵入し家屋を破壊していったところもあると聞く。この地区でも占領軍による犠牲者は出てしまった。しかし、武装勢力と一線を画し、占領軍と組織的に交渉することで、次なる攻撃の口実を絶っている。

 「電気や水道などの生活環境も改善したい。市当局と交渉をしたが、最初は『不法占拠だ。出て行け』といわれた。だが、交渉を重ねる中で、最終的には、市当局が全員の移住地を用意するまで、ここにいてもよいことになった」

 地域作りはこれからが本番だ。

 「約650世帯が住んでいる。みな最低水準以下の生活が続いている。UUIが何度か支援物資を持ってきてくれた。無料で受けられる医療サービスもありがたい。仕事を、失業手当を、と要求を掲げるUUIの目的は、わたしたちのめざすものと同じだ」

 サミーは地域の組織化に向けた意気込みを語った。(続く)

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