占領下のイラクから毎日のように戦闘行為とその犠牲者の報が届く。労働者のデモも発砲を受け、死傷者が出ている。占領体制はイラク民衆の正当な権利要求を暴力で抑え込んでいる。そんな中、イラク南部の都市バスラで労働組合の大会が開かれた。民主イラクを築く市民レジスタンスは着実に拡大している。(豊田 護)
宗教勢力との論争
昨年11月26日、イラク第2の都市バスラで労働者の大会が開かれた。42の労働組合や準備会の代表、その他多くの労働者約350人が集まった。イラク労働者評議会労働組合連合(FWCUI)のバスラ支部が結成され、役員が選出された。
イラクのかいらい政府は、暫定統治評議会が出した労働運動を抑圧する指令第16号を継承している。イラク労働組合連合(IFTU)を唯一合法組合とし、FWCUIに弾圧を加えている。そんな中で、イラク失業者労働組合(UUI)などが加盟するFWCUIがまた一回り大きさを増した意義は大きい。
組合大会を成功させた労働者(2004年11月26日・バスラ)
|
|
バスラを中心とする南部地域には、南部石油会社や発電所・港湾・繊維工場など主要な産業・工場がある。その一方でイスラム教シーア派の聖地・ナジャフなどを控え、宗教政党の影響も強い地域である。政教分離の民主的社会を築く上で、占領軍・かいらい政権の弾圧をはね返すとともに、宗教勢力の支配からも脱する必要がある。
労働者が自由・平等の原則に基づいた民主的な運動を貫くこと。それが力となる。
8月にイラクを訪問したとき、UUIの活動の一部を聞くことができた。ナシリアでデモを計画したとき、スローガンを巡り宗教勢力との論争があったという。失業者を組織するUUIには、宗教政党に属する人やその影響を強く受けている人も当然加盟できる。実際、イスラム最高評議会のメンバーも参加していた。
宗教グループは、組合員の個人的な不平を利用しながら宗教的なスローガンをも掲げるように主張した。自由・平等をめざす市民レジスタンスのメンバーは、失業者に関する要求に限るべきだと反論した。結局、宗教的スローガンはおろされた。
UUIのナシリア支部は選挙を実施しないまま組織が大きくなった。組合員は宗教政党に参加を表明した書記長を選挙で替えた。
記者がバグダッドに滞在している間、何度も、南部への訪問の機会をうかがった。FWCUIやUUIの組織化の現場が見たかった。
だが、南部地域は占領軍と武装勢力との戦闘行為が続いていた。現地の労働者からは「安全が保証できない」と、受け入れOKの連絡はこなかった。
権利を守る闘い
ナシリアは2003年5月下旬、侵略戦争の被害を取材したとき、米兵に機銃掃射された子どもたちの話を聞いたところだった。バスラはバンカーバスターの爆撃で犠牲になった多くの市民を知ったところだ。
侵略戦争の被害は全土に及んだ。その上に占領軍による虐殺、武装勢力との戦闘で再び市民の犠牲者を重ねている。職のない若者たちが宗教勢力に民兵としてリクルートされる。悲劇は繰り返されてはならない。
2004年1月、サマワでは失業者のデモに対し発砲事件があった。参加した市民に犠牲者が出た。デモを主催した青年は、イスラム政党の事務所から銃撃があったと言った。サマワ市当局が警護を頼んでいたという。宗教に名を借りたギャング団なのかもしれない。いずれにしても武装勢力の銃口によって労働者の権利が守られることはない。
* * *
2004年の年末に、FWCUIの闘いが伝えられた。ナシリアにあるイラク最大の発電所で、経営者の腐敗摘発、労働条件の改善を要求してストライキが敢行された。電力不足に悩む市民のために施設の操業改善をも求めている。サダム・フセイン政権下で制定された公務職場での争議を禁じた法令はいまもそのままだ。だが労働者は自主的に労働組合を組織し、ストライキをうち、政府・経営者に要求をのませた。
バスラの電力会社でもストライキを構えて、賃上げ要求を突きつけている。クート市の繊維工場で起こったストライキには当局の武力弾圧があったが、抗議する闘いが広がっている。
一つ一つの積み重ねが、市民レジスタンスに対する信頼を築いている。アマラ市の国営企業労働者が職場の問題を扱ってくれといってきた。衣服縫製工場のIFTUのメンバーから自分の工場を組織しに来てくれと連絡があった。UUI・FWCUIなど市民レジスタンスは、人びとに希望を与えている。(続く)